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  [ 見知らぬとこで七色が 5 ]
2011-11-03(Thu) 06:40:44
ぐうと腹が鳴った。
泣き終わってからの胃の訴えに、
俺はとてつもなく恥ずかしくなった。
一方、声を堪えながら男は笑った。
「情けないな俺‥」
「そんなことないよ。生きてる証だろう。
 さて、シチュー作ってあるから食べようか。
 今ここに持ってくる」
男は肩から手を離し、すっと立ち上がる。

部屋を出る直前、男がにこりと笑いかけてきた。
俺は目をごしごしと手で拭ってから、笑い返す。
すると、小さく頷いて、男はここを後にした。
今時にしてはレアなくらい親切で、優しい男だった。

自己紹介をしたいけど記憶喪失ときた。
とある日本男子です、とだけしか自分を紹介できないし、
言わなくてもそんなのは判る。
記憶がないってとにかく不便だ。

それでも、俺はまだ見えるし聞こえる。
ここはまず、見えるものから情報を集めていこう。

ここの部屋は和室だった。
和室に見合った和風な家具が、いくつかある。
そうだな、例えて言うなら、
おばあちゃんの家にあるようなそんな感じのものだ。

それから目覚まし時計があった。
時間は5時。
カーテンの日差しからしてたぶん夕方だろう。
ベンチにいたのが朝方じゃないかと推測すると、
約半日、俺はまるっと寝ていたことになる。

と、男がトレーを持って戻ってきた。
シチューとごはんとお茶が置かれている。
しかも、2人分。

「俺もここで食べるから」
「え?どうして?」
「1人で食べるより2人のが楽しいだろ。
 ほら、手を貸すから体を起こそう」

俺の肩下に右手を入れ、俺の体をくるんと抱き起こした。
まるで、こういうのに慣れているような手つきだった。

「くらくらしない?平気?」
「大丈夫」
「よし。それじゃあ食べようか」

体を起こして服を見ると、俺はスエットを着ていた。
男がわざわざ変えたんだろう。
服のままだと寝づらいと思ったのか、それとも潔癖症なのか。
まあ、いずれにしろ、このほうが楽は楽だけどな。

汚さぬように掛布団を畳んでから、あぐらになり、
スプーンと皿を手にした。
シチューはよく煮られていて、野菜も肉も美味い。

「これ、すごく美味いな」
「それならよかった。
 嫌いなものあったら残していいから」

嫌いなものなんて俺にあったのかな。
あったとしたらどの野菜が苦手だったんだろう。
そんなことも思い出せない。

「おい、どうした?」
肩を叩かれて顔を上げた。
男が、心配そうな表情をしている。

「え?何?」
「嫌いなもの残していいって言ったら、
 急にスプーンが止まったから、どうしたのかなってさ」
「どんなものが嫌いだったのか考えてたんだ」
「‥あ‥ごめん」

俺の痛みにシンクロしたような辛い顔をしながら、
男はそっと謝ってきた。
謝られても困る。
こうなったのは男のせいじゃないんだし。

「いいんだ。これからまた作っていけばいい。
 好きなものも嫌いなものも」
言ってシチューを平らげると、男はにこりと笑った。

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