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  [ 見知らぬとこで七色が 10 ]
2011-11-13(Sun) 05:30:00
「ところで、コウ」
「何?」
「帰ってくるの予定よりも早かったね。
 俺はトイレ助かったけど」
「早く終わったから切り上げてきた。
 エンのこと心配だったし」
夕方から始めて夜遅くに帰れるなんて、
どんな仕事なのかと興味があった。
訊ねてみようとしたけど止めることにした。
コウの放つオーラが険しい、そんな気がした。

ストレス地獄のような仕事なのかな。
まあ、ストレスフリーな仕事なんてないけど。

俺の傍で、あぐらをかいて座っているコウは、
暗い目をしてじっと畳を見つめていた。
握っているコウの拳が、心なしか震えている。

俺でいいなら何でもいいから話せばいいのに。

そうすれば、少しはすっきりすると思う。

今の俺に、できることなんてほとんどないけど、
それでもコウの役に立ちたいんだ。

俺は悔しくて唇を噛んだ。
すると、コウが俺の頬に触れてきた。
「そんなに噛んだら切れるって、エン」

切なそうに笑うコウに目をやる。
目が合い、コウの手が俺の唇を撫でた。

どきん、と胸が跳ねて顔が熱くなる。
男にこんなところを触られて、どきどきするなんて、
熱のせいなのか判らないけど俺はどうかしてる。

コウが俺に迫ってきた。
顔が近づいてきて脈が早くなる。
このシチュエーションは、
キスされる5秒前そのものだった。

いやいや、男同士で、まさかそれはないだろう。

いやいや、でも、世界にはそういう人達もいるんだ。

いやいや、いやいや。

思考が混乱し、ついでに目も回りそうで、
ぎゅっと目を硬く閉じてしまった。
すると、唇にティッシュが当てられた。
「唇やっぱり切れてる。これで拭いとけ」

そっと目を開けると、コウが微笑んでいる。
さっきの険しいオーラは消えていて、
あははと楽しそうにコウは笑っていた。
俺はティッシュを押さえながら、勘違いに苦笑いする。

「そんなに唇噛んでどうした?
 血にでも飢えたの?」
「そうそう血に飢えて‥ってなんでやねん」
ノリツッコミ入れてから、俺も笑う。

記憶がなくなる以前も、
きっとこんな風に誰かと笑い合っていたはずだ。

世の中、そんなに甘くないのは判ってるけど、
それがコウだったらいいな、なんて密かに思った。

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