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  [ 見知らぬとこで七色が 19 ]
2011-12-03(Sat) 08:30:00
ビニール傘を持ったコウがこっちに駆け寄ってくる。
突然のコウの登場に、俺はびっくりして固まった。
「コウ、どうしてここに?」
「エンこそ何してんだ。びしょ濡れじゃないか」
「ごめん、実はあの傘なんたけど‥」
「これだろ、ほら」

コウの手には、女の子に貸した傘があった。
どうしてそれをコウが持っているんだろう。
何から何まで、何がどうなっているのか判らない。

聞く前にコウが先に答えてくれた。
「これはオリジナルデザインのもので、
 同じものは誰も持ってない。
 それなのに、知らない子がこれを使っていたから、
 話しをちょっと聞かせてもらったんだ」

そして、女の子にはビニール傘を買ってあげて、
オリジナルの折り畳み傘と替えてもらい、
傘がないであろう俺のことを探していたという。

俺は泣きそうになって声を詰まらせた。
いつもコウに迷惑かけてばかりだ。
きっと仕事中だったのに、女の子の傘を見て、
俺のことをこんなに気にかけてくれた。

それだけで、もういい。

「もういいよ、コウ。
 俺これから警察に行ってくるよ」
「え?どうして?」
「歩けるようになったら行くつもりだったんだ。
 だって、記憶が戻るのがいつか判らないからさ、
 それまで世話になれないし」
「そんなの今じゃなくていいからまずは帰ろう」
「もういいから放っておいてよ!」

腕を掴んできたコウの手を払った。
瞬間、俺の目からぽろぽろと涙が溢れてきた。
泣くなんて男らしくないし情けないけど、
どうしても止まらなかった。

すると、コウが微笑んだ。
「俺はエンのこと放っておかないよ」

どうして俺にこんなに優しいのか。
警察に行く決心が、ぐらぐらと揺れてくる。
行かなきゃいけないって思っていたのに。

コウの傍にいたい。

コウから離れたくない。

コウが俺に笑いながらまた腕を掴んでくる。
今度は、それを振り払えなかった。

それどころか、込み上がるもので胸が苦しい。
胸がどきどき鳴ってうるさい。
うるさくて苦しくて切なくなった。

「まずは帰ろう?」
「‥うん」

俺はコウと共に、傘に入って家に戻った。

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