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  [ 見知らぬとこで七色が 20 ]
2011-12-07(Wed) 09:00:00
「エン、まずは風呂入って」
コウに言われて、風呂の前で洋服を脱ぐ。
服が濡れているせいで脱ぎ辛い。
じたばたしていると、見兼ねたコウが手伝ってくれて、
シャツとジーンズを脱ぐことができた。
トランクスに手をかけた時、
コウに腕を触られてびくっと体を震わせた。
「うわ!何?」

腕、足、背、とコウの手が滑っていく。
好きだから触ってきた、とかじゃなくて、
体の冷たさを手で確かめていた。
よかったような、がっかりしたような。

「冷たいから早くシャワー浴びてきなよ」
「あ、うん」

コウに背をむけてトランクスを脱いで、
言われるまま風呂へ入っていった。
熱い湯を浴びてじわりと体の芯が温まってくる。
雨に濡れたせいで冷え切っていたらしい。

体に当たるシャワーの粒を見つめながら、
コウへの好意を自覚していた。
離れたくない、傍にいたい。
そう思うからにはコウのことが好きなんだろう。
考えるだけで心がほっこりする。

男とか女とか、そんなの関係なかった。
こういうのは理屈じゃない。
好きなものは好きなんだから、しょうがない。

でも、もしも俺の記憶が戻ったら。
ドラマだと、記憶がない時にあった出来事を、
すっぽりと忘れたりするんだ。

だったら何も思い出したくない。
昔のことなんか忘れたままでいい。
コウのことを忘れたくない。

そんなことを考えいたらコウの声がした。
「エン温まった?」
「うん、もう上がる」

風呂を出るとコウが笑顔で待っている。
どきっとすると、バスタオルが投げられた。
「ほら、ぱぱっと拭きなって」

再び体のあちこちを手で触れてくるコウ。
たぶん、体が温まったかどうかを自ら確かめている。
でも、俺にあんまり触らないでほしい。
勘違いしそうになるし反応だってしかねない。

心を無にしながら体を拭いてスエットに袖を通す。
すると、コウと目が合った。
にこりと微笑まれてつられて微笑む。
すると、コウは嬉しそうに笑った。

「やっと笑ってくれた」
「え?」
「だって、ずっと険しい顔してた。
 もしかして女の子に傘を貸したことを、
 怒られると思ったんじゃない?」
「う‥うん」
「あはは。優しくてエンらしいって思ったよ」

笑顔の台詞に、苦しいほど胸がどきっとした。
俺はコウが思うほど優しくない。
それでも、そういうふうに言ってもらえて嬉しかった。

「ありがとう。それより仕事戻りなよ。
 もう大丈夫だから」
「いいんだ。こんな雨じゃ誰もこないし。
 今日はもうこれで閉店ってことにする」
「閉店?コウって店やってんの?」
「さあね」
「ったく、コウのこと知りたいのに」

唇を尖らしながらバスタオルを投げ返してやる。
すると、キャッチしたコウが、子供っぽい笑顔になった。
その笑顔のまま、バスタオルを俺の髪に乗せてきて、
わしわしと髪を拭いてくれる。

「ほら、髪がまだ濡れてる。しっかり拭かないと、
 風邪ひいてまた寝込んじゃうぞ」
髪を拭いてくれる手の動きが、すごく気持ちいい。

傍にいるだけで気持ちが溢れてきそうで、
思わずコウのシャツを掴んだ。
好きだなんて言いたくない。
言ったら嫌われるし、ここにいられなくなる。

そうだって判ってるのに、苦しいのと辛いのとが、
どうしても止まらなくて。

つい、コウの胸に頭を寄せた。

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現在風邪中のためやや更新遅足気味です‥。
すみません‥できるだけ早く治します‥。


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