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  [ 見知らぬとこで七色が ボーナストラック ]
2012-02-01(Wed) 04:30:22
今日は日曜で、バイトの子がもうすぐ店にやってくる。
臨時のバイトは高校生で、しかも2人組だそうだ。
ネットショップの注文をもらった衣類の、
商品梱包と発送準備を、やってくれることになっている。
店番用のバイトは高校生だときつい。
バイトとなると、高校生は土日とか放課後に限定され、
融通が利かないし時間が厳しい。

だから、先月、接客してくれるバイトを募集した。
バイトから正社員にアップする可能性もある、
という募集内容のせいか、かなり応募があった。
そっちは人が決まり、来月からここで仕事をする。

それを桂馬に報告したら、面白くない表情をされた。
たぶん、あれはやきもち妬いているんだろう。
でも、やきもち妬かれても、それはしょうがない。
桂馬には桂馬の、俺には俺の、スタンスがあるから。

と、店のドアが開いた。
「こんにちは」
「‥こんにちは」

高校生2人が、どうやらきたらしい。
約束の時間の到着や、挨拶でいい印象だった。
レジの脇に置いているパソコンから顔を上げると、
まだ幼い感じの男の子がいた。

「初めまして。阿久津です。
 桂馬さんからの紹介で、バイトしにきました」
「‥あの、笹崎です。宜しくお願いします」

愛想のいい阿久津に、
阿久津にこそりと隠れているメガネの笹崎。
対照的なのが面白そうだ。

「店長の長瀬です。宜しくね」
2人をバックヤードに案内し、注文リストを手渡した。
倉庫や店内で、リストのものを探して持ってきて、
それを梱包し発送の準備をしてもらう、
という仕事をしてもらう手筈になっている。

たったそれだけだけど、客足が連日、
嬉しいくらい絶えないの。
それでいて接客も通販の発送もしないといけない。
手がとにかく足りなくて、桂馬にバイトを紹介してもらった。

日雇いでもいい2人は、忙しい時だけ呼んだら、
都合さえつけば急行してくれるという。
俺にとっては嬉しい限りであった。

しかし、この笹崎って高校生、
どこかで見たことある。
じっと見ていると、笹崎が更に阿久津に隠れた。
笹崎に対して阿久津が笑う。

「それじゃあ作業入りますね」
「うん。休憩とかは適当にとってね」
「はい」

2人がバックヤードに入り、すぐに開店になった。
日曜のせいか、店にはかなりの客がきている。

店内の入口に、伊吹とスウのポスターを展示していた。
シャツを購入してからポスターを撮影していく、
という人がとにかく多い。
それだけこの2人の人気があるってことだ。
ポスターを作ってくれて、桂馬には感謝しきりだ。

笹崎が客の合間を縫い、服を取りに店に入る。
控え目な動きが、リスみたいな小動物のようだった。

その時だった。

ショップ内にいる、女性2人が笹崎を指差し、
こんな会話をした。

「ねえ、あれってスウじゃない?」
「え?そう?」
「メガネ取ったら、ほら、何となく似てるよ」
「まさか、こんなところにいるはずないよ。
 ただのバイトだって」

他の客もその話を聞いて、店がざわつき始めた。
笹崎がそれを察知したらしく、
真っ赤になってバックヤードに駆け込む。

「ウツミ、大丈夫?」
「‥うん。びっくりしただけ」
「作業は交代だ。ウツミは梱包やって」
「‥そうする」

阿久津と笹崎の、そんな声がバックから聞こえた。
俺は気になって阿久津だけ呼び寄せた。

「阿久津、ちょっときてもらえる?」
「あ、はい」

ドアを閉めて、阿久津と並んで小声で話をした。
「あのさ、まさかとは思うんだけど、
 スウって笹崎なわけ?」
「そうです、そのまさかです」

俺はくらっと立ちくらみがした。
どうして、よりによって、
スーパーモデルがこんな日雇いのバイトにきたのか。

それよりも、桂馬だ桂馬。
とんでもない高校生を紹介してくれたもんだ。

「隠してたのは謝ります。
 でも、桂馬さんに紹介してもらった以上は、
 バイトでもちゃんと仕事やりますから」
阿久津は真剣に、そう答えた。

そうだよな、モデルだろうが何だろうが、
ここには仕事にきたんだ。
桂馬への文句は、とりあえず後回しにしよう。

手順の変更は、阿久津に一任し、
やりやすいように仕事を継続してもらった。
しかし、それから1時間もしないうちに、
客がなぜか殺到し始めた。
どうやら、スウがここにいるらしいと、
誰かがブログやらツイッターやらに書いたみたいだ。

でも、それってポスターのことじゃないか、
と帰っていく人もいて助かった。
昼食後、2人はせっせと発送の準備をしてくれて、
夕方には終了した。

ドアを開けて、阿久津がそれを報告してくれる。
「長瀬さん、終わりました」

ショップ内に客はいなかった。
俺はドアを開けたまま、バックヤードに入っていく。
梱包された紙袋が、ずらりと並んでいた。

「こうやって見るとすごい量だな。
 1人だけじゃこんなに仕上げられなかったよ。
 すごい助かった。ありがとう」
笑って言うと、2人も笑った。
俺はレジに入れていた、封筒を手渡す。

「少ないけどこれバイト代。
 また頼むかもしれないから宜しくね」
「ありがとうございます」
「‥ありがとうございます」
阿久津と笹崎は、封筒を見つめてから視線を合わせ、
にこりと互いに笑った。

なるほど、こうやって改めて見てみると、
やっぱり笹崎はスウに間違いない。
髪はぼさぼさに乱れ、メガネまでかけているけど、
スタイリストの手にかかったら、
ポスターのように格好よくなるんだろうな。

しかし、それを短時間で見抜いた、女性客2人。
女性の観察力に、凄まじさを感じた。

「終わったなら上がっていいよ。
 まだ夕方だし、ゆっくりできるだろうからさ」
「はい。じゃあ帰ろうか、ウツミ」
「‥うん」

3人でバックヤードを出ると、
午前中にいた女性2人が、そこに立っていた。
笹崎がスウだと確信している、そんな目をして。

「ねえ、君、スウでしょ?」
片方の女性が、そう言った。

阿久津が、ちょっと怒ったような顔をしている。
その阿久津に微笑んで、笹崎が堂々と、前に出る。
瞬間、目元がすっと力強くなった。
さっきまでの笹崎ではなく、スウの顔だった。

「‥そうです」
「ほら!やっぱり!スウだって思ってたのよ!」
「サインちょうだい。いいでしょ?」
「‥いいですよ」

笹崎は、棚にあった白いシャツを取り、
レジにあった油性ペンで手馴れたようにサインし、
女性2人に手渡した。

「‥ここに俺がいたこと黙っててもらえます?」
女性に接近し、微笑む笹崎。
絶句した女性は、目をハートにさせて頷いていた。

「‥ありがとう。気をつけて帰って下さいね」
笹崎は、女性をエスコートするような仕草で、
店のドアをスマートに開ける。
2人はうっとりしながら去った。
笹崎は微笑みながら女性を見送ってあげている。

「ウツミ、どこでそんな技覚えてきたんだ?」
「‥伊吹さんの真似。撮影先で、よくやってる。
 もしかして妬いたりした?」
「は、まさか」

拗ねる阿久津に、笑った笹崎。
その笹崎が、俺に封筒を渡す。

「え?何?」
「‥さっきのシャツ代です。足りないなら払います」
「足りないならこっちから引いていいですから」

阿久津まで封筒を、ずいっと差し出してきた。
俺は静かに首を振った。

「いいよ。それはそれ、これはこれだから。
 その代わり、俺のシャツにもサイン書いてくれる?」
そう言うと、笑いながらサインを書いてくれた。

店には誰もいなくなり静まり返った。
やれやれ、まさか本物がバイトにくるとは予想外だった。
でも、すごくいい2人だったな。

さてと。

桂馬に、文句のメールでも送信して、
仕事をとっとと終わらせて自宅にくるよう言ってやろう。
で、シチューでも作って待っててやるか。

ボーナストラック、これでお終いとなります。
久々にジョーとウツミが登場し、ほのぼのなお話となりました。
お読み頂きどうもありがとうございました!


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最後に掲載、ツーショットのイメージイラスト。

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