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  [ 決めたゴールを走れ 4 ]
2012-02-11(Sat) 07:55:00
トランスポーターでお昼ごはんを食べてから、
ドライバーと一緒にアクセルやブレーキの調整をしたくて、
レーシングカーに座ってもらった。
後藤野さんは終始、むすっとした表情のままだった。
俺達をかなり警戒している、そんな感じに見えた。
だけど、これだってドライバーとしての、立派な仕事だ。
後藤野さんは渋々、ハンドルを回したり、
ブレーキの硬さを確かめている。
動きや目は、プロドライバーそのものだった。

「どうですか?」
「ブレーキはこれでいい。
 アクセルは遊びをもう少しつけろ」
「あ、はい。今アクセルを直しますので、
 座って待ってて下さい」

佐原と俺とでアクセルを調整し柔らかくする。
残りのチームスタッフは後ろからそれを見ていた。

「アクセル直しました。どうですか?」
「これでいい。あとハンドルの遊びが多すぎる」
「判りました。直します」

座ってもらったままでハンドルを直そうと、
レンチを持つ手を運転席の中に入れる。
びくんと震えて、後藤野さんが蒼白になった。
呼吸が、心なしか乱れている。

「どうかしましたか?」
「何でもない!早くやれ!」
威嚇するように怒鳴られた。

怖がっているような、怯えているような、
異常なまでの嫌悪なのか。
それとも、ただ単に体調が悪いのか。

具合が悪いんだったら監督に言えばいい。
こんなコンディションで、レースに出る気なのか。
根性なのかただの意地なのか、よく判らない。

何でもないなら震えるはずないけど、
今の俺は、どうにもすることもできない。
気にしながらも気にしない振りをしながら、
素早くハンドルを調節した。

「握って下さい」
ハンドルを握った、後藤野さん。
手がかたかたと震えている
震えながらもハンドルを確かめていた。

「どうですか?」
「ああ、これでいい」
「どこかまだ調整する場所ありますか?」
「いや‥もういい‥」

後藤野さんはそんな状態のまま、
レーシングカーから出ようとした。
手ががたがたとまだ震えていた。

「あ、よかったら手貸しますよ」
俺は手袋を外し、体が倒れないよう手を出す。

すると、その手を叩かれた。
「俺に触るな!」

ピットが静まり返った。
気まずいムードの中、後藤野さんは自力でそこから脱出し、
冷や汗をかきながらピット内を去っていった。

「チーフ大丈夫ですか?」
三木谷が、俺の手を見る。

「大丈夫だ。それにしても‥」
「それにしても、後藤野さんって失礼ですね。
 チーフが手を貸しただけなのにその手を叩くなんて」
瀧が怒りながら言い放つ。

俺の手は、ちょっとだけ赤くなっていた。
加減のない攻撃だったが、痛みはすぐ引くだろう。

それにしても。

あの拒否っぷりは尋常ではない。

俺はなんとなくそう感じた。

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