BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 決めたゴールを走れ 5 ]
2012-02-13(Mon) 09:20:00
その日の夜だった。
監督に呼ばれると居酒屋に誘われた。
本来は、レース数日前から徹夜続きになる。
昨日から実際、メカニックは交代でセッティング作業をし、
ほとんど仮眠しかとれない状態だ。

それでも、監督は強引に俺のことを誘ってきた。
一度は断れても二度は断れなかった。
佐原にチーフ代行をしてもらい、
レース場付近にあるレトロな居酒屋へやってきた。

座ってすぐにメニューを開く。
「前澤、飲みたいもの何でも頼んでいいぞ」
「では辛口の日本酒でも」
「渋いなお前。俺はウイスキーをロックで頼むかな」
「人のこと言えませんよ、監督」

それもそうだな、という笑顔になる監督。
店員にアルコールとつまみを適当にオーダーすると、
日本酒とウイスキーが早速運ばれてきた。

「じゃあ、まずは乾杯するか」
「あ、はい。お疲れ様です」

グラスを合わせて口をつける。
監督と飲むのはこれが初めてじゃない。

研修5日目に、みんなで飲みに行った。
当然、研修の講師をやっていた監督も一緒に。
だけど、マンツーマンは、これが初めてだ。
さすがの俺だって、いささか緊張してしまう。

「どうだ、最近の調子は?」
「あ、はい。いいですよ。
 レーシングカーの仕上がりは順調にいってます」
「違う違う。車じゃなくてお前のことだ」
「そうでしたか。すみません」
謝ると笑われた。

監督との会話は、これまでもレーシングカーばかりで、
俺のことを聞かれるとは思わなかった。
そうか、監督なりに一応、
俺のそういうのも気にしてくれているのか。

「みんな頑張っていますから調子いいですよ」
「そうか。メカニックは調子いいわけだな」

からん、と鳴ったウイスキーの氷。

意味深な台詞を、わざとスルーする。
だけど、監督はスルーを容認しなかった。

「ドライバーとは?うまくいかないか?」
「そうですね。難しいと思います」
「それだけだとお前の努力不足が疑われちまうぞ」
「メカニックの仕事はセッティング作業であり、
 ドライバーと仲良くなることではありません」
「だが、チームワークは必要じゃないのか?」

喉がうぐっと詰まった。
それを言われてはお終いだ。

ふと、監督の食いつきに疑問が湧いた。
「誰からどんなことを聞きました?」
「なかなか察しがいいな、前澤」

やっぱり、と俺は溜め息を吐く。
チームの誰かが俺ではなくて、
監督へ直接、後藤野さんのことを報告したらしい。
ドライバーのことを俺に言われてたって、
どうにもできないど、こういう形で監督に話をされるのは、
さすがにまずいし、ちょっと気まずい。

「すみませんでした」
「何がだ?」
「チームワークが上手くできていなくて」
「できなくて当たり前だ」
監督はウイスキーを空にして、店員におかわりを頼んだ。

できなくて当たり前、とはどういう意味なのだろう。
できるのが当たり前、が普通のチームの中身のはずだ。

それについて聞こうとすると、監督が先に言葉を発した。
「光とチームワークを組むのはムリかもしれん」

おかわりしたウイスキーのグラスで、
新しい氷がからんと鳴った。

次話へ 前話へ

お気に召しましたら一票お願いします。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
決めたゴールを走れ | TB:× | CM : 0
決めたゴールを走れ 4HOME決めたゴールを走れ 6

COMMENT

COMMENT POST

:
:
:
:



 
 管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi