BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 決めたゴールを走れ 6 ]
2012-02-15(Wed) 08:15:00
コップを持ったまま、険しい表情の監督を見つめる。
チームワークが難しいと言うならまだしも、
監督がムリかもしれないと宣言をしてしまった。
「それはどうしてですか?」
「悪いが俺からは話せん」

だからって、肝心のドライバーがあの調子だ。
聞いたって答えるわけがない。
どうしたもんか、と思っているとこう言われた。

「チームワークは求めていない。仲間という存在を、
 少しでいいからあいつに感じさせてやってくれ」
「できるだけ努力はします」

結局はこちらがどんなに努力をしても、
相手のあってのことだし限界はある。
監督は、それを踏まえた上で、俺にそう頼んできた。
メカニックに頼むことじゃないと思ったが、
仕事の一環、としてできるだけのことはしよう。

「レーシングカーの仕上がりは順調なんだよな?」
監督は、安心したような笑顔になると、
スムーズに話しの流れを変えた。

「指示通りにきちんと作業しています。
 ただ、やはり軽さを狙うか重さを選ぶかで、
 メカニックの中で意見は分かれますね」
「そこなんだよな。
 前のメカニックチームもそれを悩んでいた」
「それは追い追いで申し訳ないですが、
 後藤野さんのテクニックでまずは検証しましょう。
 過去のデータで検証するよりも、 
 まずはこの目でレースを確かめたいですから」

一気に喋って日本酒を飲む。
車やメカのことになるとつい熱くなり、
べらべらと唇がよく滑ってしまう。

「ああ、そうしていくとしよう。
 ところで、彼女はいないのか前澤?」
にやり、と微笑む監督。
待っていたと言わんばかりの顔をしていた。

「いませんよ」
「いつからいないんだ?」
「そうですね、5年くらいは彼女いません」
「前澤、ルックスいいのにな」

監督の一言に、俺は思わず酒を吹いた。

「うわ!何だよお前!びっくりした!
 吐かせるようなこと聞いちまったか?」
「すみません‥褒められると思わなかったので‥」
「それくらいで吐いてどうすんだ」
苦笑いする監督。

これまで交際してきた女性も、
なぜかルックスだけは褒めてくれていた。
背も高く、顔もそんなに悪くなくて、仕事も安泰で高収入。
だけど、それだけだって言われてきた。

あと、そうだ、オイル臭いとも言われたっけ。
メカニックなんだし、さすがにそれは仕方ないだろう。
俺からオイルの匂いがしなくなる時は、
メカニックを辞めた時だけだ。

「まあ、彼女がいても結婚してても、仕事には関係ないか」
「監督は?奥さんとかお子さんいないんですか?」

噂では確か、監督は45歳。
美人な奥さんと3人のお子さんがいる、という噂がある。
あくまで噂だけど。

「10年前に嫁さんが子供3人を連れて、
 金持ちの実家に、とっとと戻っちまったよ」
「あ‥すみません‥」
「いいんだ。離婚したけどいい関係なんだよ。
 子供も時々、俺のところに会いにくるしな」

その顔は、監督の顔ではなく父親の顔をしていた。
優しくて温かい、そんな感じだ。
もしかしたらまだ奥さんを愛しているのかもしれない。
まあ、それを知るのは己のみだが。

「そうですか。いいですね」
「だろ?バツイチが言うのも何だけど、パートナーを選ぶなら、
 レースやメカに理解のある人物にしておけよ」
「はい、そうします」
笑いながら酒を交わして、しばらく雑談をした。

次話へ 前話へ

巷はバレンタインネタで溢れておりますね♪
それに比べてうちは至ってマイペース(滝汗)


お気に召しましたら一票お願いします。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
決めたゴールを走れ | TB:× | CM : 0
決めたゴールを走れ 5HOME決めたゴールを走れ 7

COMMENT

COMMENT POST

:
:
:
:



 
 管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi