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  [ 決めたゴールを走れ 7 ]
2012-02-16(Thu) 06:10:00
とうとう予選日がやってきた。
予選の成績で、本戦のスタートポジションが決定する。
周りと見ると、テレビカメラやレポーターや、
他チームのスタッフでピットがごった返している。
あのドライバー、テレビで見たことある。
あっちのあの人は雑誌に載っていたことがある。

後藤野さんや監督にとっては、いつも風景だろう。
だけど、俺にとっては初レースだ。
セッティングは上々ではあるけれども、
何にしても俺は、腹痛するほど緊張していた。

いや、レースくらいで緊張してどうするんだ。
チーフたる者これではダメだ。
もっとしっかりしないといけない。
なんて理屈では理解するも、
どうもそれに対して体がついていかないようだ。

「ちょっと緊張しますね」
ピットで話しかけてきたのは瀧だった。

こういう時に話しかけてくれる瀧は神のようだ。
いつもは、ちょっと生意気だけど。

「ああ。俺なんか緊張で吐きそうだ」
「チーフに限ってまさか。
 面白いこと言わないで下さいよ」
瀧が笑うとメカニックチームのみんなも笑い出した。

緊張を和らげるための発言と思われている。
いや、そうじゃないんだが、
そう思われたほうがマシな気がしてきて、
青ざめながらもついみんなと笑ってしまった。
笑顔はかなり微妙だろうけど。

青ざめた顔をしながら、
監督にセッティングについて報告する。
指示通りの整備が、全て終わった旨を伝えた。

その時だった。

ピット外にいた後藤野さんが笑っていた。
インタビューを受けているらしく、
外国のニュースなのか英語で、軽やかに受け答えしている。
後藤野さんの英語は、気持ちいいほど流暢だった。

そう言えば、後藤野さんは帰国子女だっけ。
国内外でドライバーテクニックを評価されているから、
外国からもこうして注目されている。
どうやら、数年前のGTレースでの出来事について、
インタビューを受けているみたいだ。

後藤野さんはフォーミュラニッポンにくる以前は、
GTレースのドライバーだった。
後輪がバーストしたのにピットまで完走した、
という出来事があり、ファンにとっては伝説になっていた。
俺もちょうどテレビで見ていて、それはよく覚えている。

英語はそんなに得意じゃないけど、所々の単語で、
インタビュアーとそんな話をしているってのは判った。
インタビューが終わってピットに入ってくると、
後藤野さんから笑顔がすぐに消失した。
いつもの人を嫌うような、険しい顔になる。

「おい」
その後藤野さんに、珍しく声をかけられた。

「あ、はい」
「セッティングできたのか?」
「はい。監督にもさっき報告しました」
「お前のセッティングを確かめるのはこの俺だ。
 酷いセッティングだったらここを辞めてもらうからな」
「光、それは言いすぎだ」

後藤野さんを諭したのは監督だった。
怒ったような目をしている。

「俺もセッティングに携わっているんだぞ。
 俺のことも辞めさせるか?」
「いえ‥そういう意味じゃなくて‥」
「メカニックチームは最高の仕事をしてくれている。
 光は光なりの仕事を俺に見せろ」
「はい‥」

俺を睨んだまま口を歪ませて、
後藤野さんは自分のイスへ着席した。
三木谷や瀧がいらっとしたのが自然に伝わる。
後藤野さんをフォローするように監督が、
みんなの肩を叩きながら歩き回ってくれた。

仲間という存在を、
少しでいいからあいつに感じさせてやってくれ。

監督の言葉が、ふと頭を過ぎる。

そんなことできるだろうか。

溜め息をつきながらレーシングカーに目を向けた。

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あ、すっかり忘れていましたが、
バレンタインデーでうちのブログ3年目突入となりました。
わほーいヾ(*´∀`*)ノ
バレンタインネタも3周年企画もスルーのブログですが(爆)
これからも宜しくお願いします!


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