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BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 決めたゴールを走れ 9 ]
2012-02-19(Sun) 06:35:00
トイレに行って繋ぎを脱いで、腹を見る。
ヘルメットが当たったところは、
赤くなっているだけで腫れてはこなさそうだ。
嫌われているのは置いとくとして、
仕事にそれが影響するのは迷惑である。
それでも、手の打ちようはなく頭が痛い。

トイレから出て手を洗っていると、
後藤野さんがトイレに出現した。
汗が一気に噴き、全身が強張る。
こんなところでは会いたくなかった。

戦う、逃げる、道具、魔法、
などとRPGの戦闘シーンのような選択肢が、
ふいに頭を過ぎった。
戦える術はないし、使える道具は持っていない。
唱えられる魔法も覚えていないから、
ここは逃げるに限るだろう。

「おい!」
さっきのように呼ばれて、ぎくっと体が止まった。
どうやら逃走に失敗したらしい。

「あ‥はい‥」
視線を合わせないで返事を返す。
だから、どんな顔でこっちを見ているのか判らない。
今のところ判りたくもないが。

すると、ぽつりと呟かれた。
「さっきは悪かった」

突然の謝罪に、俺はかちんと固まった。
まさかここで謝られるとは思わなかった。
ここにいる後藤野さんは偽物じゃなかろうか。
もしくは、影武者とか双子とか。

やばい、俺パニックに陥っている。
冷静になろうと深呼吸してから返事をした。

「あ‥いえ‥」
「前澤、だっけ?」
「はい」
「お前はどうしてこのチームに入った?」

迫られながら訊ねられた。
俺よりも背は低いけど、気迫と迫力は満点だ。

「オーナーが、俺の車のメンテを気に入ってくれて、
 それがきっかけで誘われました」
「それだけか?」
「あ、はい」
「そうか。ならいい」

後藤野さんは奥にある個室へと入った。
同時に、俺はトイレを出る。

ヘルメットを投げつけてきたことを、
一応、後藤野さんなりに反省しているらしい。
人間らしい部分に、俺はちょっと嬉しくなった。
そして、嬉しくて少しにやけた。

誰も聞いてないけど声を出したい。
そんな気分になり、トイレの外で袖を捲くった。
「よし、やるか」

ピットに戻るとメカニックチームは汗だくになって、
それでもレーシングカーのセッティングしていた。
レースやメカが好きでみんなここに集まってきたんだ。
いつか後藤野さんに、頑張っているみんなの気持ちが、
伝わるといいなと思う。

「チーフ、いいことでもありました?」
タイヤをチェックしていた瀧がそう訪ねてきた。

「いや。どうして?」
「ちょっとにやついてますよ」
「そうかな」
「キャンギャルと連絡先交換でもしたとか?」
笑顔でからかってきたのは佐原だった。

確かにピット外には、
可愛いらしいキャンギャルが微笑んでいる。
衣装も過激で、見ていられないほどスカートが短い。

ついそっちを眺めていると、
キャンギャルと目が合って手を振られた。
ふわりと靡く長い髪が眩しい。

と、いかんいかん。
俺はピット内に、さっと向き直った。

「あのな。俺がそんなことするように見えるか?」
「まあ、今のからして見えなくはないですね」
佐原の一言で、ピットが笑いに包まれる。
俺もつられて笑った。

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