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  [ 決めたゴールを走れ 13 ]
2012-02-24(Fri) 13:00:00
高級外車の助手席に、俺はちょこんと座っていた。
運転席にはもちろん後藤野さんがいる。
不機嫌なのか無表情なのか、
むすっとした顔をしてハンドルを動かしていた。
後藤野さんはトランスポーターの裏側にいたらしい。
メカニック達と俺の話を聞いており、
誰もいないのを見計ってから声をかけたようだ。
飛行場近くのホテルが今度泊まるところだから、
暇だから送ってやる、という補足つきで。

後藤野さんの自宅マンションは都心部にあって、
シーズンはホテルで寝泊りしているみたいだ。
いや、まあ、俺だって金があれば、
ホテルで過ごしてみたいっていう憧れはある。
しかし、しがないメカニックには、
ドライバーほどサラリーがあるわけじゃない。
カプセルホテルかサウナがせいぜいってところだろう。

それにしても、俺のことをあんなに嫌っているのに、
送ってやるなんて声をかけるとは、どういうことだろう。
まさか、このまま誰もいないところに連れられて、
ぼこられやしないだろうか。

そんなことを考えて青くなった。
さすがにそんなことはしないだろう、たぶん。

「おい」
「あ、はい」

後藤野さんが、俺を見た。
カラコンをしているのか、元からの色なのか、
グレーのキレイな澄んだ瞳をしている。

「俺の運転は荒いか?」
「そんなことないですよ」
「そうか」

どうしてこんなこと聞いてきたんだろうか。
まさか、俺が青くなったから車に酔ったとでも、
この人なりにそう考えたのか。
偏見かもしれないけど後藤野さんに、
そんな優しさがあるとは思えない。
なんと言ってもヘルメット投げつけるからな。

けど。

本当は、これが本性なのかも。

「後藤野さん」
「何だ?」
「いい運転です。ハンドルの動きも少ないですし、
 轍もさりげなく避けてますよね。
 ブレーキのタイミングも、いいと思います」

そう言うと、更にむすっとした顔をされた。
俺にしてみれば褒めたつもりだったけど、
後藤野さんからしたら余計だったのかもしれない。

褒めてもむすっとされ、褒めなくてもむすっとされる。
あとはスルーくらいしか手は残っていないけど、
そんなことしたら、更にむすっとするに決まっている。

溜め息をつきながらちらりと隣を見る。
すると、後藤野さんの口元が、柔らかく笑っていた。
「そうか」

後藤野さんのこんな笑顔は、初めて見た。
インタビューの時ですら見せなかった、本当の笑顔だ。

仲間という存在を、
少しでいいからあいつに感じさせてやってくれ。
監督の言葉が、頭を過る。

後藤野さんに何かがあったのは間違いない。
だけど、今はまだそれを聞くには早いだろう。
さすがに俺だってタイミングくらい読める。

でも、いつか、今よりも近づけたら。
解決はできなくても共有してあげたい、と思う。

そんなことを考えている時だった。

車のスピードが落ちてゆっくり止まった。

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