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  [ 決めたゴールを走れ 14 ]
2012-02-26(Sun) 05:10:00
「くそ、どうなってんだよ」
車がぴくりとも動かなくなった。
エンプティランプはついていないから、ガス欠ではない。
となると、エンジン系でも壊れてしまったか。
後藤野さんはかなり苛立っていて、
アクセルを壊さんばかりに踏んづけていた。
国道は幸いなことに後続車が走っていない。
俺は車を降り、中央線側を走っていた高級外車を押した。
後藤野さんがこっちのやろうとすることを理解し、
ハンドブレーキを解除してくれて、ギアをニュートラルにする。

とりあえずは車を路肩に運ぶことができた。
息をつく間もなく、ボンネットを開けるようお願いをする。
ざっと見た感じだと、熱も持ってないし煙も出てないから、
エンジンも壊れている感じはない。

こうなると、あとは潜ってみないと判らない。
外車にはさすがに工具なんてないし、
かと言って、いくらメカニックだからって、
俺がいつもそんなものを持っているはずもない。

さて、どうしたものか。

「おい!」
こう呼ばれるのも慣れた。
運転席にいる後藤野さんに、声だけ答える。

「あ、はい」
「どうなんだ?どこか壊れてんのか?」
「いえ、見えるところは壊れていません。
 あとは潜ってみないと何とも」
「どうすればいいんだよ?」
「これって任意保険入ってますか?」

訊ねるも答えが返ってこない。
どうしたのかと思っていると、バツが悪そうな声がした。
「入ってたけど更新するの忘れちまって‥」

ロードサービスでも頼めるのであれば、
レッカーで運べるかもしれないと思っていたけど、
更新切れではそれも期待できそうにない。
レースで忙しくなって更新するのをつい忘れたんだろう。
忘れた時に限って、トラブルは起きるもんだ。

「あ、そうですか」
「他は?」
「どうすればいいか、今ちょっと考えてます」

なんて言いながら、考えなんか浮かぶはずがない。
ロードサービスは使えないし、工具も皆無だ。
こうなったら、ヒッチハイクして牽引でもしてもらうか。
どこまで牽引してもらうかも問題だ。
カーショップでもあればいいが、ここから見えるのは、
コンビニの看板くらいだ。

そうか、コンビニがあるのか。
焼けるように暑いし、汗がだらだらと止まらない。
喉もからからに渇いていた。
外車のことも心配だけど、
まずは俺のコンディションから整えたい。

「とりあえず、コンビニで何か買ってきます。
 後藤野さんは?何飲みます?」
「俺も行く」
と、運転席から出てきた後藤野さん。

ここにいても、コンビニまで歩いていっても、
暑いのも辛いのも変わりない。
国道の道路も歩道も、どこにも影すらない。
コンビニまで歩いてクーラーに当たったほうが、
むしろいいかもしれない。

「じゃあ、車をもうちょっと動かしましょう。
 路肩はさすがに危険ですから」
俺達は2人で、少し先にあったスペースに車を運んだ。
そこに車を止めて、俺が持っていたレシートの裏を使って、
故障車、と書いたものをフロントガラスに置いておく。


「そんなことしないといけないのか?」
「こうすれば駐禁切られませんし、イタズラもされません」
色々やることあって面倒だな、という表情の後藤野さん。
ことの重大さを、あんまり判ってない気がする。

「さて、行きましょうか」
遠方にあるコンビニ目指して、俺達は出発した。

歩いている時、ほとんど会話はなかった。
イヤな感じはせず、心地のいい沈黙だった。
そして、10分後コンビニに到着した。

俺達は、同じスポーツドリンクを選んだ。
会計を済まして店外で飲む。
後藤野さんは半分まで一気飲みした。
俺はちびちびと飲む。

「おい」
「あ、はい」
「これからどうする?」
「どうしましょうか」
「マジメに考えてんのか?」
「後藤野さんこそいい提案ありません?」

うぐ、という呻き声がした。
どうやらいい提案はなかったらしい。
こっちだって手段さえあればとっくに行動している。

さて、これからどうしようか。
暑さにぼんやりとしている時、とあるものが遠くに見えた。
目を細め、それに集中する。

「後藤野さん!」
思わず大声を出した。
びっくりした後藤野さんに、にこりと笑ってみせた。

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