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  [ 決めたゴールを走れ 16 ]
2012-02-28(Tue) 06:45:00
俺がちょっと寄るだけで青ざめていたのに。
俺のことなんか嫌いなはずなのに。

後藤野さんが、俺のシャツを掴んできた。
びっくりして目が点になった。

「もういい‥から‥」
怯えた声で、絞り出すように俺に言う。

表情は強張り、少しだけ震えていた。
後藤野さんにとってのこの行動は、
かなり思い切ったものだろうと俺は思う。
でも、どんな意図があって、
このような行動をとったのか理解できなかった。

「何がいいのか判りません」
カートに寝そべったまま、真っ直ぐ目を見る。
噛んでいた唇が、ふっと緩んだ。

「どうしてそこまでするんだよ」
「メカニックだからです。
 車に何かがあれば車を見る、それがメカニックです」
「ウソつくな!」
「ウソなんかつきません!」
工場に俺の大声が響く。

俺の声に、後藤野さんが静止した。
シャツを掴んでいた手が、
力が抜けたようにがくんと垂れ下がる。

目上でありチームのドライバーでもある人物に、
大声でとんでもない言葉をかけてしまった。
さすがの後藤野さんも、かなり落ち込んでいる。

やばいと思ったけど、謝るのは後にしよう。
この人に言ったことはもう取り消せないし、
俺もさすがにここで引くことなんてできない。

「謝るのはこれが終わってからにします」
それだけ言ってから、俺はカートで潜っていった。

潜ってちょっと見ただけで、すぐに原因が判明した。
カートで外に出ると、ドライバーはまだしょぼくれている。
子供か、と思いながらも声をかけた。

「ガソリンタンク内の計器が壊れています。
 これから部品交換しますから」
後藤野さんはこっちから言葉をかけても、
頷きもしなければ見もしなかった。
いたずらして叱咤された子供みたいだ。

カートから起き上がって、店長に言って部品を貰う。
国産車を販売しているディーラーに高級外車の部品なんて、
もちろん置いていない。
だから、類似しているパーツで代用することにした。
これでも充分代用はきくだろう。

それを手にしてまたカートに寝そべった。
さて、そろそろ謝っておかないと、
いつまたヘルメット投げつけられるか判らない。

「さっきはすみませんでした」
謝ってまた潜ろうとした時、再びシャツが握られる。
そして、反省した子供は、目を潤ませながら潔く謝った。

「俺こそ‥悪かった‥」

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