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  [ 決めたゴールを走れ 18 ]
2012-03-01(Thu) 07:00:00
車はしばらく走っていった。
休憩なしで約2時間後。
当然のように高級ホテルへ到着した。
玄関のロータリーに侵入していく。
ホテルマンが傍に駆けてくると車が止まった。
「後藤野様、いらっしゃいませ。
 ここからは車をお預かりします」
「どうも。ほら、バッグ持って降りろ」
「あ、はい」

後藤野さんと一緒に、バッグを持って降りる。
すると、エンジンが回ったままの車にホテルマンが乗り、
車をゆっくりと走らせていった。
ここからどこへ行ってしまうんだろう。

「車いいんですか?乗っていきましたけど?」
「ホテルマンがパーキングに入れてくれるんだよ」
「あ、そうですか」

さすが高級ホテルだけあってサービスが充実している。
こんなところ利用したことないから、
ピンからキリまで判らないことばかりだ。

出張ではビジネスホテルを利用していたし、
飲んだりして終電が無くなれば、
カプセルホテルを使うくらいだった。
つまりは、こんなホテルとは縁がないってこと。

「いつまで見てんだ。さっさとこい」
ホテルマンにドアを開けてもらい慌ててホテルに入る。
そこは、きらびやかなロビーラウンジだった。
値段も判らないようなシャンデリアで全体が照らされている。
高級さに思わず歓声が出かけて、ぐっと息を飲んだ。

ロビーラウンジには、場に相応の客と、
相応のホテルマンがあちこちに待機していた。
俺にはみんながきらきらして見える。
それに比べて俺は、こんな高級ホテルに、
汚れたシャツとジーンズで立っていた。

後藤野さんはフロントのカウンターで手続きしている。
その間は恥ずかしくて柱に隠れていた。
ひょっとしてこれは何かの罰ゲームじゃないだろうか。
はあっと溜め息が出てしまう。

「おい」
横からいきなり声がかけられた。
どきっとして、目ん玉がぼろっと飛び出かけた。

「あ、はい」
「ついてこい」

先に行ってしまった後ろ姿を、慌てて追う。
ふわふわの絨毯が引かれたエレベーターで10階へ上り、
奥のほうまで歩いていった。
到着したドアにカードキーを挿入すると、ドアが開いた。

玄関を入って廊下を歩くと、
ドラマでしか拝見したことのないような室内が、
俺達のことを出迎えた。
安いホテルしか知らない俺にとっては、
まさしく未知の空間である。
照明も家具も、ソファも、恐ろしいほど高そうだった。

「うわ‥っ」
ロビーラウンジで堪えられてた声は、
ここではもう堪えられなかった。
田舎者っぽさ丸出しでもいい。
とにかく、高級すぎて歓声しかない。

「おい、そんなに珍しいか?」
呆れたような声ですら、ここだと美しく聞こえた。
空間の能力、とでも言うべきか。

「あ、はい。こんなところ初めてきました」
「あっそ。今日はここで一泊するからな、
 飽きるほど見られるぞ」
「え?俺ここに泊まるんですか?」
「じゃなきゃ連れてくるかよ」

後藤野さんの言葉に、さあっと青ざめた。
慌てた俺は、財布の中身を確認する。
所持金5万円。
飛行機代に、オフでのごはん代が含まれている。
こんなところに泊まるには足りないだろう。

「ここに連れてきたのは俺なんだから、
 俺がちゃんと出すっての」
青ざめた俺に、ソファに座った後藤野さんが笑った。

「そんなことされる理由なんかありません」
「あるだろ、修理代」
「あんなのちょっと治しただけじゃないですか」

そうだよ、計器の故障も修理も茶飯事だ。
あれっぽっちのメンテナンスが、
こんなホテルの宿泊費と同等のはずがない。
やっぱり罰ゲームに違いない。

泣きそうな顔になると、後藤野さんが接近してきた。
「おい、メカニックには簡単だろうけどな、
 こっちはお前がいなかったらここに着かなかったんだ」

大きな目で、きりっと睨まれた。
いや、睨んでいるように見えるだけで、
もしかしたら照れ隠しかもしれない。

「まあ、それはそうかもしれませんけど」
「だから、俺にここで礼をさせろ」

礼をしてくれるのは嬉しいけど、
それにしては妙に偉そうでおかしくなった。
きょとんとしてから、次はこっちが笑う。

「何だよ、笑うな」
「すみません」

そして、俺はこのホテルに泊まることとなった。

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