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  [ 決めたゴールを走れ 21 ]
2012-03-05(Mon) 07:05:00
「それにしても、さっきのお前面白かったな」
テーブルには、ワインの空瓶が5本もあった。
食器はとっくに片付けられている。
片付けにきたホテルマンに後藤野さんが、
ワインを用意するよう依頼をした。
数分後にはチーズやナッツのつまみと一緒に、
ワイン7本がここに運ばれてきた。

初めはグラスを使って飲んでいたけど、
後藤野さんはテンションがアップしたのか次第に、
瓶のままラッパ飲みするようになった。
顔を赤くしながらさっきの俺を肴に、
楽しそうに笑いながら飲んでいる。

「これでも水泳部でしたから。
 ってそんなことはいいじゃないですか‥うわあ!
 あはは、慌ててたのがすごい笑える」
さっきから、これの繰り返しだ。

慌てていた俺のことが、かなりツボらしい。
さっきまでは律儀にツッコミしていたが、
キリがないと判ってからはそれも辞めてしまった。
さすがに疲れてきたし言わせておけばいい。

「はいはい、そうですね」
と、相槌のみで対応する。
これすら聞いてるかどうか定かじゃないが。

6本目の空瓶が、他の空瓶と共に、
テーブルに並んで置かれていく。
すると、後藤野さんは楽しそうな笑顔のまま、
座っていたソファに横になった。
「あはは、楽しい酒だな」

蕩けた目を、ごしごし擦っている。
これだけワインを空けたせいか眠くなったようだ。

俺とここにいてどうして楽しそうなのだろう。
少し前は、俺のことを嫌っていて、
ヘルメットまで投げつけてきたくせに。
何がどうなって態度が変わったのか、理解不能だ。

「楽しそうで何よりです」
「それ嫌味かよ」
「健全に生きてますから嫌味も言いたくなります。
 何があったか知りませんけど、
 またいつヘルメット投げつけてられるか、
 こっちはびくびくして構えているんですからね」

俺にしては珍しく、嫌味オンパレードを口走った。
酔いのせいか言いたいことが止まらない。

「メカニック総入替もそれが関係してるんですよね?
 言いたくないこともあるでしょうから聞きませんけど、
 メカニックに八つ当たりしても、
 こっちには関係ないんですから解決しませんよ」

瞬間、後藤野さんが無表情になった。

気持ち悪い沈黙が漂う。

やばい、さすがに言い過ぎたか。
でも、俺だってこれまで耐えてきたんだ。
これくらい言っても罰にはならない。
なんて思いながらも胸がもやもやする。

「悪かった。言われた通りだ」
修理中に聞こえた声色と同じものが、
静かに響いた。
後藤野さんは、俺のことを見ないで続ける。

「でも、頭で判ってるけど心が追いつかない。
 俺もどうにかしたいと思っている」
「だったら、イヤなことはぶちまけたらどうです?
 俺はかなり酔ってますから、
 聞いても忘れますし見てても覚えてませんよ」

言うと後藤野さんは笑った。
「お前って変わってんな」

人にヘルメット投げつけるような人に、
そんなことを言われたくない。
思ったままを伝えると、後藤野さんは苦笑いした。

「悪かったって言ってんだろ」
「悪かったって言ってるように聞こえません」
「妙につっかかるなお前」
「むかつきます?またヘルメット投げつけますか?」

後藤野さんは寝転がったまま、頭をぺこりと下げた。
「ああ、もう、マジで悪かった。
 お前はあいつとは違う。それは判った」
「あいつ?」
「お前だってもう判ってんだろ。
 前メカニックチーフの男のことだって」
「何かあったんですよね?」

後藤野さんは泣きそうな顔になった。

だからこそ俺は言ってやった。

「泣きたかったら泣いたらどうですか?」

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