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  [ 決めたゴールを走れ 22 ]
2012-03-07(Wed) 06:00:00
大学卒業後、すぐに父さんと母さんが亡くなった。
ほとんど同時に同じ病気になって、
それから、亡くなるまであっという間だった。
仲良しだった両親らしい人生だった。
葬式の喪主は、姉さんが務めた。
姉さんは俺より3歳上。
俺とは違って、しっかり者だった。

葬式の最中も気丈で、みんなに笑顔だった。
そんな姉のせいか、葬式だっていう実感もなく、
俺はのらりくらりとやり過ごしていた。

葬式後、誰もいなくなってから呼ばれた。
仏壇前で泣いたかどうかを訊ねられたのだ。
言われてみれば泣いていない。
両親が亡くなったという実感も湧いてこない。

そのまま伝えると、ぱちんと姉に頬を叩かれた。

姉さんは泣いていた。

それを見てやっと俺のほうも泣けてきた。

男だから、20歳過ぎだから、社会人なんだから、
という理由を自分に勝手につけて、
泣いてはいけないものだと思っていた。
だけど、そんなものは驕りであり誤りでもあった。

「泣くのに男とか女とか、年齢とかも関係ないの。
 人間はね、泣かないと進めない時があるんだよ」
涙声で、姉はそう言った。
そんな思いを抱えて、姉はそこで泣いたのだ。

俺と姉は、たくさん泣いたと思う。
そして、今こうやって進むことができる。

後藤野さんの時間は、
辛いままで止まっているように見えてしまった。
だからこそ、俺はこう言った。

「泣きたかったら泣いたらどうですか?」
「は?」
「悔しかったこと辛かったこと、あったんですよね?
 泣くのに男とか女とか、年齢とかも関係ない。
 人間には、泣かないと進めない時があります」

俺なりにいいこと言ったつもりだった。
だけど、きょとんとされてしまい、
後藤野さんは直後に、腹を抱えて笑い出した。
「ははは!泣けって言われて泣けるかよ!」

まあ、言われてみればその通りでもあり、
俺はしばらく黙っていた。
笑い疲れたのか肩で息をしながら体を起こすと、
後藤野さんは抱えていた空瓶を、テーブルに乗せた。

笑いすぎて涙が出たらしく、ごしごしと目を擦っている。
「おかしかった、ははは」

目を擦りながら下を向いてしまった。
力の抜けた笑い声と、鼻を啜るような音が聞こえる。

次第にそれは涙声となった。

「‥聞くな」
「聞いてません」
「‥見るな」
「見てません」
「‥誰にも言うな。すぐ忘れろ」
「さっきも言いましたよね。
 俺はかなり酔ってますから覚えてませんって」

辛そうに震えている肩を、
ぽんぽんと叩くことしか俺にはできなかった。

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