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  [ 決めたゴールを走れ 25 ]
2012-03-10(Sat) 10:35:00
光さんの車から、トランスポーターが見えてきた。
すごく懐かしい気がする。
車はゆるやかにカーブを曲がっていって、
サーキットのスタッフ専用パーキングに駐車をした。
「おい、聖。行くぞ」
「あ、はい」
車から降りた顔は、前とは違って、
きりっと引き締まっていた。
やっぱり、光さんはプロなんだなと思う。

どうやら、光さんを悩ませていた悪いものが、
どこかへ吹っ飛んだようだ。
いつどこで、どうなったのか、俺にもよく判らないが、
あれから俺に八つ当たりない。

八つ当たりはなくとも振り回されはした。
そのせいで、休みだったのにあまり休めなかった。
けど、楽しかったことも多かったし、
気晴らしにもなってオフを満喫することができた。

俺達は、まずピットに入っていった。
三木谷に瀧に佐原、他のクルーも揃っている。

「チーフ、おはようございます」
「おはよう、瀧」
笑顔でいつものように挨拶してきたのは、
弟のような瀧だった。
続くように他のみんなも、元気よく挨拶する。

スタッフ全員に返事していると、俺の肩に腕を乗せ、
光さんがこう言った。
「メカニックチームのみんな、おはよう」

突然の挨拶に、チーム全員が石化した。

メカニックを毛嫌いしていたのにこの笑顔だ。
みんなが石化するのも、当たり前っちゃ当たり前だ。

さて、どうしたものか。
俺は石化を解く呪文を、残念ながら取得してない。
ここはゲームの世界じゃないから、
サーキットの店に魔法書を売ってもいない。
やれやれ、これは困ったぞ。

「みんな固まってますよ光さん」
「固まらせるために言ったんだけど?」
「そんなこと判ってます」
「これは一体何事ですか!チーフ!」

三木谷が、頬を震わせながら俺に訊ねた。
どうやら自力で石化を解除したらしい。

「まあ、話すとちょっと長くなるんだけど‥」
「細かいことは置いとけばいいって」
光さんの台詞ではない気がするが、
ピンからキリまで話すわけにはいかない。
いつか話せる日がくると信じて、
ここはひとまずスルーさせてもらおう。

「ところで監督はきてる?」
「いえ、オーナーもまだきていません」
俺の問いに、石化を解いた佐原が答える。

前回はちゃんと監督もきていた。
まあ、道路が込んだり電車が遅れたりすれば、
こういうこともあるのかもしれない。
だけど、おかしいと思ったのは俺だけじゃなかった。

「マジで?そんなこともあるんだな」
と驚いたのは光さんだった。

「そうなんですか?」
「ああ。オーナー達はいつも誰よりも先にきてる」
「いないなら仕方ありません。
 まずはミーティングするでしょうから、
 このままピットで待っていましょう」
「だったら、マシンをピットに運んじゃおうぜ。
 ミーティングしたら、どうせすぐ作業するんだろ」
「あ、そうですね。じゃあ、まずは着替えて、
 みんなでピット内にレーシングカーを運ぼうか」
「はい!」

俺の指示が出て、チームの石化が解除された。
ってか、もう誰も石にならないでほしいと切に願う。

俺達はトランスポーターで着替えをし、
レーシングカーを運び出してピットまで押し運ぶ。
次いでパーツも運び、
ミラーなどの簡単なものだけを装着していった。

「おい、聖。リアウイングどうにかならないか?」
傍にいた光さんが、腕を組みながら俺に言う。

「どうにかとは?」
「カーブの時にやけに揺れるんだよ。
 開発に言ってもいい返事が返ってこないんだ」
「もっと詳しくお願いできます?」
パーツ設置を佐原に一任して、光さんの話しを聞いた。

「俺はどうも感覚的なことしか言えないが、
 揺れるってかぶれる感じがするんだ。
 カーブとか直線とかで、風がうまく抜けてない気がする。
 そのせいでアクセル踏んでもスピードが乗らないんだよ」
何となくだけど言いたいことは伝わってくる。

俺はボードを手に、風速と時速を、
ちょいちょいと簡単に計算していった。
光さんが横から覗いて、おおっと驚いている。

「すごいな、こんなの計算できんのか」
「一応そういう勉強しましたから。
 それに、マシンを整備するだけが仕事じゃありません」

その時、オーナーと監督がピットにやってきた。
会話している俺達に、2人はやはり石化してしまった。

だから、俺はそれを解除する呪文は知らないんだ。
いや、あとでとりあえず、サーキットの売店覗いてみるか。

なんて思いながら、ただ苦笑いした。

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