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  [ 決めたゴールを走れ 28 ]
2012-03-17(Sat) 08:25:00
予選タイムは8位、本戦レースは6位。
これで、ようやくポイントをゲットできた。
前回は予選は10位で本戦は15位。
カーブも安定しており、今シーズンの中でも、
今回のタイムは抜群によかった。
タイムもそうだが、ピット作業の時間も短縮された。
俺達だってたくさん練習してきた。
練習の成果が、ようやく評価された気分だった。

光さんも手応えを感じたらしい。
ピットに着いてから、嬉しいそうにヘルメットを脱ぎ、
それを脇に抱えてピット内に入ってくる。

実はほんの少しだけ、ヘルメットを警戒をしていた。
嬉しそうな顔は、スタッフへのフェイントで、
もしかしたらまたそれを投げつけてくるかもしれない。
光さんを信じているけど、怖くて震える。

なんて身構えていたら、光さんが笑った。
「おい、聖。手を出せ」

言われた通りにすると、ぱんっと強いタッチを受けた。
笑いながら光さんは、三木谷や瀧や佐原、
それからスタッフ全員にタッチしていった。
光さんなりの感謝なんだと判り、チーム全員が笑顔になる。

光さんにタッチされてひりひりする手。
この痛みが嬉しくて、手を見つめて俺は笑った。

監督もオーナーも笑顔だった。
ドライバーが笑顔だとみんなが笑顔になる。
チームESは、いいムードになっていた。

少し前は、光さんはいつもメカニックを睨んでいた。
ムードも険悪でどうなるかと心配だった。
だけど、こうして結果オーライとなって安心した。
これを次のレースに生かせれば、まだまだ巻き返せるし、
いい結果になること必然だ。

ピットを眺めながら笑っていると、隣に監督が立つ。
ふと目が合うと、笑って頷かれた。
笑顔でそれに返事をすると、ばしっと尻を叩かれた。

「何するんですか急に」
「あいつが復活できたのは、お前のお陰だ」
笑っている光さんを見て、人差し指で鼻を擦る監督。
ぐすっと言いながら、泣きそうな目をしていた。

「それは光さんの力ですよ」
俺はそれに対して、首を振る。

「お前のそういうところが伝わったのかもな」
「そういうところって、どういうところですか?」
「俺じゃなくてあいつに聞いてみろ」

光さんにそれを聞いたって答えるわけがない。
そういうところなんてどうでもいいか。
聞いてもメカニックとして生かせなさそうだし、
長所としてそれを公表するわけでもない。

「こそこそ話してるけど何?」
監督と俺の狭間に、光さんが割って入った。

「気になるか光」
「どうせ俺のことだろうけど気になる」

監督の視線が、ここで聞いてみろって感じだった。
言われたことを聞いてみたって、
光さんがスムーズに答えるわけがないってのに。
ここは、どうにかごまかそう。

「光さんのことは話していません。
 料理を作りたいって監督にお願いしていました」
「は?料理?」
「昔、親がラーメン屋やっていて、
 バイトで調理を手伝っていたので料理は得意なんです」
「へえ、意外だな」
俺の肩に腕を乗せ、光さんが感心したように言う。

「どんな料理が得意なんだ、前澤?」
「何でも作れますけど、得意なのは餃子です。
 光さんのコースレコードのお祝いに、
 トランスポーターのキッチンで作ってもいいですか?」

話題を逸らしやがってという表情で笑われたが、
監督はもちろん了解してくれた。
スタッフのみんなも聞いていたらしく喜んでくれている。

「餃子か。すごい楽しみだな」
光さんがマシンの上にヘルメットを置いて、
眩しい笑みを浮かべる。
ヘルメットが安堵したように、きらりと光った。

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