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  [ 決めたゴールを走れ 34 ]
2012-03-23(Fri) 06:00:00
俺達は、タクシーを拾える通りまで歩いた。
光さんが泊まるホテルへ行って、
そこのバーで飲み直すことになった。
どういう経緯があって、そうなったんだっけ。
忘れるくらい酔っているようだ。
雰囲気に押されてビールや日本酒を珍しいくらい、
浴びるようにたくさん飲んだからな。
でも、光さんが楽しそうだし、まあいいか。

「なあ、聖」
「はい?」
「ありがとうな」

光さんからのお礼に、ふと首を傾げた。
礼なんかを言われることをした覚えがない。
成績がいいのは光さんの実力だ。
こっちはメカニックとして、そしてチーフとして、
やるべきことをやっているだけだし。

「えと、まあ‥はい‥」
無難にそう返事すると、光さんが笑った。

瞬間、その笑顔が消失した。

真っ青になりながら俺に腕にしがみついてくる。

光さんは俯いたまま、俺に隠れて道の隅へむかう。
ビルの角に隠れて、そっと身を潜めると顔を上げた。
怯えた目に、少し赤い頬が、色っぽく見えた。

「どうしたんですか?」
「あいつが‥いる‥」

震えながら呟く。
心なしか呼吸も荒かった。

「あいつ?」
「前のチーフだった男がそこにいる‥」

まさかと思いながら、前からくる男をそっと見た。
40代の男性が、真っ赤な顔で、
ふらふらと酔っているように歩いてくる。
男はどうやらはしご酒をしているらしくて、
カウンターだけの立ち飲み屋に入っていった。

光さんが疲れたように、息を吐く。
腕にしがみついている手が、ぶるぶると震えていた。

「本当にあれが本人ですか?」
「間違いなく本人だ‥」
「それなら、見つからないうちに行きましょう」
「悪い‥足が‥」

手だけじゃなく体そのものが震えていた。
前チーフにされたことによっての怯えなのだろう。
いつも強がっている光さんが、怖じ気づいて震え上がり、
動くどころかここから歩けなくなった。

「おんぶしましょうか?」
「しなくていい‥」
「じゃあ、ずっとここにいます?」
泣きそうな光さんが、首を振る。

俺はいらっとしながら言った。
「あの人がレースを見にきたら、
 レース中でも光さんは、そうなるんですか?」

何があったのかなんて聞いてやらない。
昔はどうやっても変えられない。
でも、それに打ち勝たないと人は進んでいけない。
光さんがそれに気づかないと、ずっとこのままだ。

「そんなのイヤだ‥っ」
潤んだ目が、きりっと強くなる。
光さんの意志は強かった。

証拠に、体の震えが少し治まった。
言いたいことがそれなりに伝わったようだ。

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