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  [ 決めたゴールを走れ 37 ]
2012-03-26(Mon) 06:00:00
光さんかと思いきや、それは警察官だった。
「こんなところで、どうされましたか?」
通報があって急行してきた、という感じではない。
たまたまここを通りかかったようだ。

「お巡りさん!助けて下さい!」
と言って制服を掴んだのは、前チーフの方だった。
先手を取られてしまい形勢が悪くなったが、
同じことをしたらこっちが怪しまれるだろう。
しばらく動向を見守ることにした。

「いきなり絡んでこられて困ってたんです!」
「君、どうなの?そんなことやったの?」

まさしく前チーフの通りであった。
いきなりどついて、絡んで、
光さんにしたことを匂わせるニュアンスを言った。

だけど、それをここで認めたくなんかない。
だってこいつがむかつくんだ。
光さんにトラウマなんか作りやがって。
お陰で、ヘルメット投げつけられ損じゃないか。

「あのですね‥あれ‥?」
喋ろうとした時に、飴っぽいような塊が、
ころんと口の中で転がった。
何だろうと思い、それを手の上に出してみる。

抜けた歯が、ころころと揺れていた。

「君!それどうしたの!」
警察官が、びっくりした。
前チーフと俺は、その声のでかさに驚いた。

「さっきその人に肘で突かれたので、
 それでこれが抜けたのかもしれません」
いてて、なんて言いながら、口の脇を触る。

「口から血まで‥これは傷害罪ですよ?」
警察官の矛先が、前チーフに変わった。
すると、前チーフは青ざめて逃げていった。

「こら!待て!君はここで待っていなさい!」
俺に言い残し、警察官は前チーフを追っていった。
そして、ここには俺だけが残された。
ふうっと肩の力を抜くと、光さんが傍へきた。

「おい、聖。大丈夫か?」
「大丈夫です」
「ウソつくな。口の脇から血が出て‥ひいっ」

光さんの目が、手に出したあった歯に食いついた。
みるみるうちに、光さんまでもが青ざめていく。
たぶん、前チーフを見つけた時よりも青ざめていた。

「歯が、これ、聖の‥っ」
呂律も回らないほどの混乱に陥っていた。
ぶるぶると震えながら、光さんはまた俺にしがみつく。

それを一蹴するように大笑いし、
口を開け、穴の空いているところに歯を差した。
「これは差し歯なんです」

昔、大学の時に入っていた水泳部の打ち上げで、
今よりももっと酔ったことがあった。
その時に後輩と絡んで、さっきのようにごみ箱にダイブし、
後輩の拳がたまたま顔面に入ってしまった。
そして、奥の歯が折れ、それから差し歯になった。

父さんには笑われ、母さんには呆れられ、
姉さんにはアホかと言われたっけ。
それを思い出しながら歯の話をすると、
なぜか光さんに怒られた。

「それならそうと、初めから言えよな!」
「俺もまさかこうなるとは思っていませんでした。
 偶然にもいい一発食らったら、
 接着が緩んでいたのか義歯が取れちゃったんです」

ってなわけで差し歯を見せたらびびるかな、
なんて思ってそれを試してみた。
想像以上に効果抜群で、終わりよければ全てよしだ。

「さてと、すかっとしたところで、
 お巡りさんが戻らないうちに、トンズラしましょう」
「トンズラって泥棒じゃあるまいし」
「そんなこと判ってますよ。ほらほら行きますよ」
「待て‥足が‥っ」

光さんの両足が固まっていた。
傍まできたくせにここで固まってどうすんだ。

「行きますよ光さん」
動けない光さんの腕を、ぐいっと引っ張ってみる。
すると、すんなりと足が出たではないか。

その時の光さんは、嬉しそうな顔をしていた。

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エロのないターン更新記録中でございますm(_ _;)m

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