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  [ 決めたゴールを走れ 45 ]
2012-04-04(Wed) 05:00:00
「おい、聖。ここにある本見てもいいよな?」
「って聞きておきながらもう見てるじゃないですか」
「あはは、それもそうだな」
光さんは寛いでいて、本を手にしては中を開く。
本に飽きたら床に積んで、また他の本を手にする、
ということを繰り返していた。
片付けもせずに集積していくあたり、この人らしい。

一方、俺はシンクで食器を洗っていた。
チャンプルーに、好評だった餃子も手作りしたから、
洗うものが多かった。

「なあ、エロ本どこだ?」
「少なくともそこには置いてませんよ」
「なんだ、つまんないな」
「そんなもの見てここで何するんですか。
 光さんならそんなもの頼らなくてもいいでしょう」

頼らなくても寄ってくる女は、いくらでもいる。
サーキットで出待ちしている女性はたくさんいるし、
手紙やらプレゼントやらも大量だ。

最近はレースの成績もよく、雑誌とかの取材もあるし、
モータースポーツの雑誌ではグラビアまで掲載されている。
光さんはまるでモデルのような扱いだった。
しかも、そのグラビアが、なかなか格好よく撮影されている。
いや、俺がわざわざ雑誌を買ったんじゃなくて、
光さんから貰ったから、中をちょっと見ただけのことだ。

そんなことを考えていると、むかむかしてきた。
別に俺が、むかつく必要なんかないのに。

台所での片付けが終了して、コーヒーを淹れる。
それを持っていくと、光さんがアルバムを広げていた。
俺の、中学時代と高校時代のだ。
光さんは嬉しそうな顔で、俺のアルバムを見ている。

「コーヒーどうぞ」
「サンキュ。聖ってあんまり変わらないな」
「そうですね。我ながらそう思います」
「部活はずっと水泳なのか?」
「小さい時、体が弱くてスイミングに親が通わせてくれました。
 それがきっかけで、中学から大学まで水泳部です」
「へえ、そんなエピソードがあるのか」

コーヒーを啜る光さん。
その隣に腰を下ろして、俺もアルバムを覗いた。

「光さんは部活は何でしたか?」
「俺はサッカー部だった。朝から晩まで泥まみれだ」
光さんの母校の話にもなり、少年のような笑顔で、
サッカーについて熱く語ってくれた。

出会った当初のような、ぎすぎすした雰囲気はもうない。
光さんはやっぱりいい人だ。
サッカーもレースも、いつだって全力なのだろう。

それなのに、そんな思いを歪ませた前チーフ。
前チーフさえ光さんに何もしなければ、
この人はとっくにトップを獲れていたし、
トラウマに苦しまなくて済んだんだ。

ずきん、と胸が痛む。

「おい、聖。腹でも痛いのか?」
光さんが不安そうな顔をしていた。
どうやら俺は腹を撫でていたらしい。

「あ、すみません。大丈夫です‥うわあ!」
言葉の途中で、光さんが俺のシャツを捲った。
いつぞやのように、強引な手口で。

驚きながらも光さんの好きにさせる。
抵抗したこところでどうせまた強引にされるからな。

光さんの目が、腹をじっと見つめる。
「そう言えば、ヘルメット当たったとこ赤くなったか?」
「赤くはなりましたけど腫れませんでしたよ。
 あれもだいぶ前のことですからとっくに治ってます」

光さんの罪悪感を消すために、笑いながら言った。
ヘルメットの件は忘れてくれていい。
あの時のこの人には、しょうがなかったことなんだから。

すると、俺の腹に、光さんが唇をくっつけた。

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