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  [ 決めたゴールを走れ 52 ]
2012-04-12(Thu) 06:00:00
ばさっ、と持っていた弁当を落とした。
俺の家の前に、蹲っている光さんがいたからだ。
「光さん」
声をかけると肩がびくりと揺れた。
蹲る体が、とても小さく見える。

どこにいたんですか。

みんなで探したんですよ。

明日はもう予選です。

どうしてブレーキの最終調整にこなかったんですか。

いつからここにいたんですか。

言いたいことは山ほどあったが、
冷えた上着に触れて、それを言う気が失せた。
それに、そんなこと言われなくても、
光さんだったら全部を判っているはずだ。

「外は寒いですから家に入りましょう」
そう言うと、ふるふると首を横に振られた。

拒否されたからって放置することはできない。
このままドア前に蹲っていたら体が冷えてしまう。
風邪を引いたり体調を崩しかねない。

俺はドアを開けてから、光さんを強引に立たせた。
脇に手を突っ込み、ぐいっと引っ張り上げる。
「入りますよ光さん」

さっきの拒否の一件からして、
立ってくれないかなと思っていたけど、
光さんはすんなり従ってくれた。
ちょっと強引だったことについては反省しつつも、
とりあえず家に入れることができた。

光さんの表現は見えない。
顔をわざと隠すように、うなだれている。

明かりを点けて、エアコンを入れると、
俺の腕を振り払い、光さんはまた蹲ってしまった。
振り払い方が、触るなとばかりに強かった。
初めて会った時の、メカニックを嫌っていた頃のような、
そんな光さんみたいな感じがした。

それでも、ドライバーは光さんなのだ。
メカニックがどんなにマシンをセッティングしても、
ドライバーがいないと、マシンは走れない。
だからこそ、光さんを放っておけない。

身体を温めてもらおうと毛布を渡した。
光さんは蹲ったまま、毛布を掴んで全身を包んだ。
しばらくすれば体が温まってくるだろう。

弁当を置いて上着を脱いで、監督に連絡する。
「賀川だ。どうした?」
「前澤です。光さんを見つけました」
「本当か!」
「はい。ここにいます」
「どこだ?どこにいたんだ?」

アパートのドアの前で座っていたとなると、
光さんも俺も、色んなことを聞かれるだろう。
さすがに、それは避けたい。

「歩いているところを見つけて、
 俺のアパートに連れてきました」
「そうか。何にしても良かった」
力の抜けたような声が聞こえた。
監督のほっとした表情が、目に浮かぶ。

光を出せ、という言葉はなかった。
電話でごちゃごちゃと説教でもしたら、
それこそ最終レースを逃亡されかねない。
そうなったら監督の責任になるだろう。
監督も、きっとそこら辺を考えているはずだ。

「明日、一緒にレース場行きます」
「そうだな、そうしてくれ。頼んだぞ」
「はい」
言うと電話が切れた。

「光さん、監督もみんなも心配しています。
 今日はここで一泊して、レース場に戻りましょう」
再び光さんはふるふると首を振った。
レース場に戻りたくない、ということみたいだ。

「何かあったんですか光さん?」
首をふるふると振るだけ。

「前のチーフに逢ってまた何かされたとか?」
首をふるふると振るだけ。

言葉を発しないから原因が判るはずもない。
無言の態度に、さすがにかちんときた。
どれだけ心配をして、どれだけ探し回ったのか、
光さんはこれっぽっちも判っちゃいない。
ピークに達しかけている疲れもあってか、
俺は声をつい張り上げた。

「光さん!」
突然の大声に、光さんがびくっと震える。

「何があったのか知りませんけど、
 いつまでそうしてるつもりですか?」
言うと光さんは、顔を伏せたまま震え出した。

これは、もしかして。

腕をそっと外すと、光さんは泣いていた。

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