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  [ 決めたゴールを走れ 53 ]
2012-04-13(Fri) 10:40:00
「俺には構うな‥」
気弱そうな涙声で、光さんが言う。
構うなって言われても、最終レースは明日だし、
チームメイトとしてそうはいかない。
「どうしてですか?」
「俺ちょっと変なんだ‥」
「何がどう変なんです?」
「心臓やばくて動悸がする‥」

胸をぎゅっと抑えている光さん。
はあはあと息を荒げている。
泣いているのは苦しいからなのか。
こうなっては、もうレースどころではない。

「それなら病院行きましょう」
俺は思わず肩を掴んだ。
レースも大切だけど、身体のほうが大切だ。

でも、やはり首を横に振られた。
「もう行った。つてがあって、血液の検査に検尿に検便、
 CTもMRIもムリに頼んでやってもらった‥」

なるほど、病院でそんな検査をしていたなら、
ホテルやショップを探しても見つかるはずがない。
それにしても早急に病院で検査してしまうなんて、
光さんはかなり苦しいのだろう。

「それで、どうだったんですか?」
「異常はなくてむしろ健康だって‥」
「でも、光さんはまだ苦しいんですよね?」
ぎゅっと口を結んで、光さんは辛そうに頷いた。

それってヤブ医者なんじゃないのか。
どんなつてか知らないけど、そんなのに頼っていたら、
治るものも治らない気がする。

俺は焦り、おろおろした。
「ここに救急車呼びます?」
「いい‥」
「いいって言いますけど、つてなんかに頼っていないで、
 セカンドオピニオン受けたほうがいいですよ」
「いい‥」
「じゃあ、だったらどうするんです?
 どうしたら光さんは楽になるんですか?」

訊ねると光さんが見つめてきた。

潤んだ目で、とても切なそうに。

光さんの心音が聞こえる。
どきどきと、高ぶっているのが判る。
釣られるように俺もどきどきした。
ごくり、と喉も鳴る。

「聖のケガしたところ舐めたい‥」
光さんが消えそうな声で、そっと呟いた。

口のケガを舐めることや、そこから発展するキスは、
光さんなりの暇潰しだと思っていた。
こっちが拒否しないから面白がっているだけで、
そのうち飽きてやめるだろうと考えていた。

だけど、現場を見られそうになったことで限界を感じ、
光さんの思いを聞かないで、一方的に拒絶した。
それがきっかけで、光さんはサーキットから消えた。

この人の望みが、それだったからだ。

再度それは拒否できない。

光さんのことを放っておけない。

「どうぞ」
そう答えると、光さんは静かに寄ってきた。

震える唇が、俺の口脇を吸う。
光さんは舐めたかった。
俺はそこを舐められるのを待っていた。
難しいことは知らないし考えない。
もう、これでいいんだ。

次第に、それはキスへ変わった。
ぬる、と舌が入ってきて先を吸うと、
急に光さんの力が抜けた。
目を閉じたまま体を支えて、
ゆっくりと床に横に倒していく。

まだ泣いているこの人に、俺は静かに覆い被さり、
しばらく濃いキスを続けた。

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