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  [ 決めたゴールを走れ 59 ]
2012-04-20(Fri) 06:00:00
とうとう最終戦レースになった。
光さんのポイントは今のところ6位。
現在の1位と2位の選手に、アクシデントが起こってくれて、
光さんがチェッカーを受けることができれば、
優勝できる可能性はまだある。
佐原と俺と監督で、マシンを押してスタートラインへ運ぶ。
ヘルメットを被った光さんが、さっと乗り込むと、
スターターを手にしていた佐原がエンジンを回した。

スターターというのは、エンジンを回すための棒だ。
レーシングカーは軽量化を重視しているから、
スターターモーターを搭載していない。
なので、後部からスターターを挿入してエンジンをかける。

「光、思い切り走れ」
監督の激励に、光さんは頷いた。

その光さんが、俺を見る。
俺はシートベルトをきつく締めていた。

ドライバーは走行中に全方向よりGがかかる。
遊びをつけるのはとんでもない話で、
肩、腰、腿、6点式ベルトをしっかり装着した。
ベルトがレースを左右するといっても過言ではない。
それほどまでに、ベルトの存在は重要である。

ぎゅ、とベルトを締めながら笑った。
「ピットで待ってます。いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」

マシンから離れてピットに戻った。
全てのマシンがサーキットをゆっくりと走って、
またスタートラインにつく。
スタートランプが赤く照らされると、
全てのマシンがギアをファーストに入れて、
エンジンを吹かし始めた。

これまで色々な出来事があった。

それらを経てついに、ここまでやってきた。

あとは、光さんに託すのみ。

モニタを見ながらロリポップを握ると、
グローブの糸が切れているのを俺は見つけた。
予備はトランスポーターにあるけどもう手遅れだ。
レースが始まるし取りに行けない。
まあ、俺はロリポップを持つだけだし、
タイヤチェンジに携わるわけじゃないから、
このままで大丈夫だろう。

このグローブ、ずっと一緒に頑張ってくれた。
最終レースが終了したら、予備も含めて新品を買おう。
そうだ、光さんとお揃いにしてもいい。
頬を綻ばせながらロリポップを握り直した。

観客とメディアが大勢いる。
キャンギャルの数もいつもより多い。
他チームのピットも落ち着かないようだ。
サーキットにいる全員がそわそわしながらも、
息を潜めてスタートを待ち続ける。

瞬間、ランプが青になった。
轟音と一緒にマシンが一斉に発走する。
光さんは迷いのない、いいスタートだった。

レース前半は2位キープだった。
それよりも先を許さないのは、
ポイントで優っているチーム達である。
中盤は何度か、スリップストリームにつかれ、
オーバーテイクされてしまった。

それでも、新しいウイングが効いているのか、
光さんは上位に食いつく。
ピットでのタイヤチェンジも、いいタイムだった。
少しでもタイムを縮めるられるように、
俺達もタイヤチェンジの練習をたくさんしてきた。
今ここで成果を出さないと、練習してきた意味がない。

ピットに入ってくる度、ロリポップを持っている俺に、
光さんは何度も頷いてきた。
俺も頷き、マシンを幾度となく見送ってきた。

レースは後半戦へと突入した。
モニタを見ていると、光さんは3位を走っていた。
前方の車両は、ポイントが1位の2位のチームだ。
この2台が、カーブで体当たりしている。

イヤな予感がした瞬間、前方2台が、
争いながら勢いよく、コースアウトしていった。
マシンがコンクリートウォールにぶつかってしまい、
がしゃんと音を立てクラッシュする。

その時どちらかのマシンのミラーが外れてしまい、
光さんのマシンへと飛んでいくのが見えた。

ざわ、と血の気が引く。

このままだと、ミラーが光さんに当たる。

聞こえないと判っていても、
俺はモニタにむかって叫ばずにはいられなかった。

「光さん!危ない!避けて下さい!」

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