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BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 決めたゴールを走れ 60 ]
2012-04-21(Sat) 06:00:00
かきん、という金属音がした。
光さんはハンドルを切ってミラーを避けるどころか、
マシンごとミラーに体当たりをした。
あえてそうすることで、自身へ衝突する危険を回避した。
さすが光さん、咄嗟のナイス判断だ。
普通だったらそこまでの判断はつかない。

だけど、それだけで終わらなかった。
ミラーはタイヤのホイールにぶつかって、
さっきの金属音がした。
同時に、ばんっという音がしてタイヤがバーストし、
ホイールが丸出しになった。

三木谷が、モニタから目を逸らした。
瀧は口に手を当て、ああっと声を上げる。
終わったと言わんばかりに泣きそうな顔になったのは、
涙目になった佐原だった。
オーナーと監督はインカム経由で、
光さんにアドバイスらしきものを叫んでいる。

サーキット全体が絶望のムードになった。

それでも、光さんは走っていた。

俺はモニタを見て、GTの頃の光さんを思い出す。
GT時代にもバーストをしたがピットまで完走できた。
ピットでタイヤチェンジして、光さんは勝ったんだ。
あの人ならここへ戻ってくる。
バーストしても走り続ける力を持っている。

幸いにして光さんはピットに近いとこを走っていた。
バーストしたペースでピットインしてくれたら、
タイヤチェンジして、レースは続けられるに決まっている。

諦めるのはまだ早い。

俺が信じなくて誰が信じるんだ。

「タイヤチェンジの用意だ!」
俺はしょぼくれているメカニックに叫んだ。

それなのに、誰1人ポジションにつく気配がない。
光さんは戻れない、と決めつけたような顔で、
モニターを見ながら悔しそうに、がっくりしていた。

「でも‥チーフ‥」
「後藤野さんは‥もう‥」
「でもじゃない!光さんは戻ってくる!」

こんなに言っても、誰もそこから動こうとしない。
ピットが悲しみのムードに包まれている。

俺はロリポップを捨てた。
からん、と転がった音をピットに響かせながら、
無言のままタイヤチェンジの用意をする。

怒りが湧いたのは生まれて初めてだった。
がっかりする気持ちは理解できるが、
チームが光さんを信じないで、どこの誰が信じるんだ。
俺だけでも光さんを信じて、タイヤチェンジをする。

すると、瀧が傍にきて手を出してきた。
佐原も参加し、ついには三木谷まできて、
次第にみんなもタイヤチェンジの準備をした。
目が合うとみんなが俺に謝ってきた。

「チーフ!やります!」
「すみませんでした!俺もやります!」
「俺にもやらせて下さい!チーフ!」

数秒の合間に、みんなに何が起こったのか。
知りようもないがメカニックがやる気モードになった。
ドライバーが戻ってくると信じている。
そんな風に目を輝かせて、ポジションについた。
俺はみんなに任せて、再びロリポップを手にする。

「光!みんなでお前を待っているぞ!」
インカムを通して監督がそう励ましている。
光さんはどう答えたのだろう。
インカムがないから聞こえはしないけど、
いつものように偉そうなことを答えたはずだ。

スピードダウンしたものの、
光さんはピットにむかって走っている。
タイムを稼いであったお陰で、後続車まだ遠方だ。
今のペースでピットインしてタイヤを替えても、
光さんならトップを守れる。

そして、光さんの車が、ピットに入ってきた。
ブレは大きいが、ちゃんと走ってきて停まった。
俺はロリポップでストップを見せながら、
スマートに止まれなかった光さんへ、笑いながら言う。

「バーストの貴公子でしたっけ?」
「GT時代のニックネームは勘弁してくれ」

そして、タイヤチェンジが始まった。

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