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BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 決めたゴールを走れ 61 ]
2012-04-22(Sun) 06:00:00
「チーフ!」
タイヤのボルトを外してからの、瀧の声。
何かあったと感じ、俺はタイヤを見た。
さっき、ミラーがタイヤに当たったせいで、
バーストしただけではなく、ホイールも少し曲がっていた。
そのせいで、ホイールが外せない。

どうする、どうすればいい。

俺の顔で、光さんは何かあったと察した。
メットのカバーをずらしながら、悔しそうな顔をして、
光さんがハンドルを叩いた。

いや、俺はまだ諦めない。
ロリポップを置いてダッシュして、
工具箱の、ミノのトンカチを取りに行った。
ホイールの曲がったところにミノを刺し、
そこをトンカチで叩く。

一度、二度、ついでに三度。
あとちょっとで、ホイールの形が戻りそうだ。

気合を入れ四度目。
ホイールが少しだけ曲がった。
ミノとトンカチを置いて、ホイールを外そうと掴む。

瞬間、焦げたような音がした。

グローブの糸が解れていたとこが、
ホイールの熱によって溶けたらしい。
光さんはホイールでここまで走ってきた。
すなわち、表面温度は予想以上。
そこから俺の皮膚に触れてしまい、
火傷を通り越して皮膚が焼き焦げたらしい。

声を発せられず喉の奥で、
声にならない音のようなものを吐く。
危険を感知し、イヤな汗が吹き出てきた。

「前澤!どうした!」
「おい、聖!何があったんだ!」
「チーフ!大丈夫ですか!」

遠くから聞こえる、色んな声。
みんなに心配をかけている。

心配しないといけないのは優勝するかどうかであり、
俺の手のことなんか二の次だ。
それに、もうどうせケガはしている。
手を離しても掴み続けても、どのみち同じだ。
だったらこのままホイールを抜いてやるまでだ。

俺の顔で、尋常ではないものを察知したのか、
ヘルプに佐原がきてくれて、横からホイールを掴んだ。
2人で引っ張り、ホイールを外すことができた。

「瀧!三木谷!タイヤチェンジだ!」
焦っている2人に声をかけると、三木谷がタイヤを装着し、
瀧がボルトをホイールナットレンチで回した。

痛みのあまり立てなくて、マシンの傍に俺は座っていた。
心配する佐原が、俺に声をかけながら肩を持ってくれている。
だけど、俺にはやらないといけないことが残っていた。
ロリポップマンだけの仕事といっても過言ではない。

ロリポップマンには、ドライバーに出せる指示が3つある。
1つ目は、ブレーキという表示。
それはさっき見せたから、光さんはブレーキを踏んでいる。

俺は、こっちを見ている光さんに、人差し指を立てた。
2つ目は、1stギアという表示。
つまり、ギアをファーストに入れろということ。

マシンから伝わってくる音で、
ギアがファーストに入ったのが伝わってきた。
同時に、光さんはメットカバーを下ろして、前と俺を見る。
それを確認して、俺は手をすっと少し下げた。

ピット内からマシンがスタートする時、
他チームのマシンを妨げたりぶつからないように、
ピットレーンの状況を確認しないといけない。
俺は、目と音で、他ピットの状況を確かめる。
自分のケガなんかよりこっちのほうが大切だからだ。

瀧のレンチ作業が終わった。
瞬時にジャッキホルダーも後退し、俺は手を上げた。
3つ目の、ゴーサイン、コースに戻れだ。

痛みを堪えた笑みで、光さんを送る。
すると、光さんも笑った。

言葉は無くとも気持ちは通じている。

俺達にはそれで充分だった。

光さんはアクセルをフルに踏んで、
風と共に、あっという間にコースへ戻ってしまった。
たった数秒の出来事だった。

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