BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 決めたゴールを走れ 89 ]
2012-05-23(Wed) 06:00:00
「前澤、どんな話か判っているか?」
「はい」
神妙な監督に、俺はこくりと頷いた。
「何をしたから呼ばれたと思っている?
 今ここで言ってみろ」
「配置の放棄、指示の無視、勝手な整備、
 それによって起こしてしまったケガです」

その通りだと言うように、静かに監督が頷いた。
「あれがレース終盤だからいいが、始盤とか中盤なら?
 前澤のケガが原因で、ロリポップは誰が持つことになる?
 緊急時の指示は?誰がピットで出せる?」

いじわるな質問だった。
じわりと額に汗をかいて、掠れた声色で答える。

「始盤ならみんなの士気低下があったと予想されます。
 ロリポップも、指示も、チーフの代わりは誰もいません」
「そこまで判っていて、どうしてあんなことをした?」
「光さんに勝ってほしい、ただそれだけでした」
「勝利することは大事だけどな、
 ポジションを死守しなければ意味がないんだぞ」

モータースポーツというのは、そういうものだ。
ルールを遵守してこそ、勝利することに意味がある。

ポジションを無視してまで無茶をしたからこそ、
こういうケガに繋がってしまった。
こんなこと毎回していたら、それこそ身が持たない。

監督の台詞が、心にぐさりと刺さった。
でも、言い訳も、謝罪もここでしたって意味はない。
俺は黙ったまま監督の目を見つめた。

「人事についてはオーナーより一任されている。
 クビにするのも左遷させるのも、俺次第だ」
きた、と体がびくりと震える。

その時だった。

隣の光さんが頭を下げた。

「監督、ケガをさせた俺にも非があります。
 だから、聖のこと許して下さい」

決勝レースの予選で、失踪してみんなに心配かけたと、
光さんはピットでスタッフに謝った。

でも、これはそうじゃない。

己のためではなく俺なんかのために、
プライドを捨ててまで、こうして頭を下げている。

そんなことしなくていい。
光さんはいつもみたいに偉そうにしていればいい。
下っ端メカニックのために頭を下げなくていい。

それでも、嬉しくて胸がじんと熱くなった。
涙が出そうになって目が潤んだが、ぐっと堪える。

「どうしてそこまで前澤にこだわるんだ?
 光は昔、ヘルメット投げるほど嫌いだっただろ?」
監督が、不思議そうな表情になった。

「それは昔の話です。今はもう違います。
 聖がいたからウイングを作ってもらえた。
 聖がいなかったら俺はドライバーを辞めていた。
 俺にとっての聖は‥最高の仲間です‥」
光さんは泣きそうな顔で、強くそう訴えてくれた。
言葉よりも気持ちで、思いが伝わる。

光さんを制し、俺は一歩前に出た。
「ありがとうございます。
 光さんがそう言ってもらえて嬉しかったです。
 監督、俺をどうにでもして下さい。
 クビでも左遷でもいいです。
 今回のことはドライバーには関係ありません」
「バカ!それでいいのかよ!」
「いいんですよ、これで」

あなたを守れる男になりたい。
でも、こんなに守られてすごく幸せだ。
だから、もう、それだけでいいんだ。

涙を溜めながら怒る光さんに、精一杯に微笑んだ。

次話へ 前話へ

お気に召しましたら一票お願いします。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
決めたゴールを走れ | TB:× | CM : 0
決めたゴールを走れ 88HOME決めたゴールを走れ 90

COMMENT

COMMENT POST

:
:
:
:



 
 管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi