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  [ 決めたゴールを走れ 90 ]
2012-05-24(Thu) 06:00:00
「お前達、そこだけで盛り上がるな」
監督が厳しい口調で言った。
少しでも光さんに携われて、俺はとても幸せだった。
どうせだったら、笑いながら辞めてやる。
クビになったとしても、光さんとの関係は終わらない。
それくらい、どうとでもなる。
まあ、問題があるとすれば再就職くらいかな。

すると、監督が、自分の唇に人差し指を、
静かにしろと言わんばかりに、そっと立てた。
意味不明で、俺と光さんは首を傾げる。

「だいたいお前達は勝手なんだよ。
 ケンカしてみたり仲良くなってみたり、
 振り回されたこっちの身も考えろってんだ」
何やら監督の愚痴が始まった。

「ウイングを変えたいとか言いやがって。
 どんだけ開発へ説明が大変だったか。
 俺のそういう苦労も判らないだろお前達は」
監督は、そろりとドアへ近づきながらぼやき続ける。

「しかし、実績はまあまあ評価してやる。
 お前達にはそれなりの人望もあるみたいだしな」
言いながら監督がドアを開ける。
すると、メカニックのみんなが聞き耳を立てていた。

あ、まずい、みたいな顔になるや否や、
みんなして一目散に退散していった。
監督が苦笑いしながら捕獲に成功したのは、
一番前にいた三木谷だった。

メカニックチームは、三木谷を犠牲に、
まんまと逃げ去っていった。
光さんと俺は、ぽかんとして見ているだけだった。

「三木谷、どこから話を聞いていた?」
「何をしたから呼ばれたと思っている、からです」
「ほとんど最初じゃないか」

呆れたように言ってから、監督は三木谷を解放する。
みんなと同じように、そのまま逃げるかと思っていたが、
三木谷は監督に、くるりと向き直った。

そして、トランスポーターに響くほどの声でこう言った。
「監督、俺はチーフがチーフでよかったと思っています。
 初めの頃の、荒れていた後藤野さんに屈しませんでした。
 テクニックは色々持っているし、
 空力学なんかは基本からコツまで説明してくれます。
 ピットでロリポップを持てるのはチーフしかいません。
 どうかチーフを辞めさせないで下さい」

三木谷が言ってから物陰に隠れていたみんなが、
ぞろぞろと湧いて出てくる。
瀧、佐原、これまで一緒にレースをしてきた仲間が、
三木谷と一緒に、俺のために頭を下げた。

胸がじんと熱くなった。
引いていた涙が、再びこうして滲んでくる。
だけど、感動している場合じゃない。
クビになるか左遷になるかの瀬戸際なんだから。

監督はそんな光景に、頭を掻きながら溜め息をつく。
そして、突然、光さんと俺のことを睨みつけた。

「光、しばらく前澤の世話をしてやれ。
 手がきちんと治るまでな」
「はい」
「前澤、そのケガだとしばらく車はいじれないだろ。
 ウイング変更前と変更後について、
 データを見ながらレポートを書いてもらう。
 もちろん俺に判りやすいようにな。
 両手がよくなるまで提出するように」
「はい」

俺にデータを渡すと、監督は最高の笑顔で、
高らかにこう言ったのだった。
「2人の処分は以上だ。解散!」

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