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  [ 青い空を見上げて2nd 11 ]
2010-07-02(Fri) 16:25:40
笹崎侑津弥


目覚まし時計が、うるさく鳴っている。
被っていた毛布を剥いでから、スイッチをオフにした。
もぞもぞと着替えをして、キッチンへ降りていく。

『ウツミ、おっす』

エプロンを着けたジョーが立っていた、ような気がした。
実際は、キッチンに誰もいない。
ミレトスと登校するために、ジョーは迎えに行った。
昨日そういう約束をしたらしい。

テーブルには朝ごはんが、カウンターには晩ごはんが、
それぞれ用意されていた。

今この家には、俺一人。

改めてそれを確かめるように、ダイニングを見回してみた。
ジョーがいても広いと思っていたのに、
一人しかいないこの空間は、もっと広く感じる。

テーブルにあったメモを、声にして読む。
「‥ちゃんと、ごはん食べろ‥か‥」
ジョーらしい台詞だった。

「‥うん。ちゃんと食べるよ」
メモに返事をして、俺はごはんを食べた。

今日も晴天。
外は暑く、じっとりと汗ばんでくる。
通学路である桜通りでは、葉のいい香りがした。

誰もいない隣が、寂しく感じる。
あちこち目配せをして、ジョーを探してみた。
だけど、当然、タイミングよく見つかるはずもなく、
何やってんだろう俺、とすぐに虚しくなった。

たまには一人を満喫したらいいのに、
なんて言い聞かせながら道を歩いていると、
ぽんっと肩を叩かれた。

思い慌てて振り返ると、クレウスが笑顔でそこにいた。
「グッモーニン、ウツミ」
「‥あ。おはよう」

クレウスに合わせて笑ってみた。
でも、がっかり感が大きくておかしな顔で笑っている。
ジョーのわけないのに、いちいち期待しすぎだ。

「ウツミ、悲しい顔デス。どうしたデスカ?」
ひょこっと背を曲げたクレウスが顔を覗いてきた。

「‥どうもしないよ」
冷静に返事する。
これが今の俺にできる、情けないほど精一杯の強がりだった。

すると、優しい顔で、クレウスは俺の頭を撫でてきた。
「よしよしシマス」
「‥ぷ、あはは」
クレウスのよしよしに、俺は思わず吹き出した。

アメリカ人のクレウスがそんなこと言うなんて、
なんかおかしかった。
どこでそういうのを覚えてくるんだろう。

「昨日、カザネのパパさんと見たテレビでやってたデス。
 よしよしすると、ベビーはスマイルになりマス」
「‥ベビーかよ、俺」
クレウスに、静かにツッコミを入れる。

カザネとは井出のことだ。
井出はクレウス達の家に、クレウス達は井出の家にと、
それぞれショートホームステイをしている。
ちなみに、土曜の電話のママさんとは井出の母親だったらしい。

それから、俺達は並んで学校へ向かった。
桜通りをゆく生徒が、じろじろと珍しそうにこっちを見る。
クレウスが、目が合う人に、
ひらひらと手を振っているからだ。

交換留学生、という肩書きとクレウスの存在が、
異様に目立つ。
昨日、どうやら5限目の半分を全校集会にあてたらしく、
そこでクレウスとミレトスの紹介がされたみたいだった。
あまり覚えていない俺に、ジョーが教えてくれた。

と、ここで、クレウスが一人なのに気付いた。
「クレウスは、ジョーと登校しないの?」
「ミレトス、ジョーが好きデス。
 ボクは邪魔なので、ここまで一人できたデス」

えへんと胸を張るクレウス。
ここまで一人できたことを威張っているみたいだ。
まあ、迷子にならないだけでも進歩したのかな。

ミレトス、ジョーが好きデス、という単語がふと、
頭の中できゅるきゅると巻き戻しされた。

「‥もしかして、俺と初めて会った日、
 ミレトスのために、ジョーの家を探していたとか?」
「そうデス」

あの時のクレウスはこう言った。

『弟の好きな人が、この辺に住んでマス。
 ボクはその家を探してマシタ』

これだと弟がミレトスで、その好きな人がジョー、
ということになる。

好きってどういう種類の好きなんだろう。
友達、仲間、それとも恋人。
ミレトスは、俺がジョーを好きみたいに好きなのかな。
答えが怖くて、気になったけど聞けなかった。

「クレウス」
後からジョーの声がして、クレウスが振り向いた。
そこには、ジョーの腰に手を回しているミレトスもいる。
ジョーはそれを気にせずに手をポケットへ入れていた。

かなり衝撃的なツーショット。

悲しさと虚しさに包まれる。

離れろと叫びながら、
ミレトスとジョーの間に割り込みたかったけど、
現実は、顔が引きつるばかりで俺は動けなかった。

「‥おはよう」
「ウツミ、モーニン」
「おっす」
2人はそれぞれ挨拶すると、手を振って先に行った。

朝から目の毒すぎる、後姿。
ミレトスから、ジョーが好きだというオーラが放たれている、
そんな気さえした。
俺もあんなオーラ放てるだろうか。

がっくりとしながら、クレウスと並んで歩いていると、
小さな石を踏んで、ぐらりと体がよろけた。
ショックのあまり足の踏ん張りがきかない。
転ぶと思った瞬間、どすんと、クレウスが俺をキャッチした。

「‥ご‥ごめん」
「オーライ」

このタイミングで、ちらっと振り向いたジョー。
クレウスに凭れていた俺をじろりと睨みつけると、
ジョーは前へ向き直った。

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