BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 銀の翼が恋を知る 36 ]
2012-11-11(Sun) 07:45:00
観客席に、見たことのある人がいた。
ただ、テレビか何かで見たことがあるだけで、
名前も素性も、俺には判らない。

どしゃ降りの雨だというのに、
シャワーでも浴びるかのように打たれながら、
その人は笑っている。
顧問の岸先生が、ぎょっとした。
その人を知っているらしくベンチから立ち上がる。

「後藤野!どうしてここにいるんだ!」
「岸、久し振り」
「久し振り、じゃないだろう!」

さっきまで、きりっとした顔で座っていたのに、
岸先生にきりっの面影がなくなった。
それくらい、後藤野という人物のいきなりの登場に、
びっくりしたらしい。

どうしてここにいる、いちいちうるさいな、
とそんなやり取りをまだ続けている。
大人ではなくて子供同士のような光景だった。
岸先生はいつも寡黙なのに、こんなの初めて見る。

後藤野という名前で、誰なのか判った。
フォーミュラニッポンのドライバーをしていて、
シーズン優勝をした後藤野光だ。
テレビで見たことあるのは、そのせいか。
だけど、岸先生とはどんな関係なのだろう。

「ほら、岸、もういい加減にしろよ」
「後藤野こそいい加減にしろ」
「そうじゃないっての。
 ほら、そこのGKにアドバイスしてやれって」
「はあ?どういう意味なんだよ?」

ぎゃあぎゃあと言って疲れたのか、
岸先生が、肩で息をしながらそう聞き返す。
後藤野さんが笑顔で、何かを言った。
口はぱくぱくと動いていたけど、
声が小さすぎて俺は聞こえなかった。
もしかしたら小さな声はわざとかもしれない。

岸先生には後藤野さんの言葉が、
しっかりと目に入ったらしい。
耳に届いたというよりは口を読んだみたいだ。

岸先生は、言葉を失って両目を広げる。
だけど、すぐにいつも通りきりっとした顔になった。

「それを選択するのはGK自身だ」
「だからさ、言ってやらないと選べないんだって。
 アドバイスを聞いていればそれくらい判るだろうが。
 GK、絶対にそれを躊躇している。
 それを押してやるのが、監督の仕事だ。違うか岸?」

なんのことを言っているのかが判らないけど、
GK、という単語からして、きっと俺のことだろう。

言ってやらないと選べない。

アドバイスを聞いていれば判る。

絶対にそれを躊躇している。

GKとしての俺がやりたいけど、やれないことを、
後藤野さんが察知している。
雨に打たれながら目が合うと、にこりと笑われた。
いつもなら返せるのに笑えなかった。

「光さん、退避しないと風邪引きますよ」
後藤野さんの隣にいた人物が、呆れながら言った。
2人共、とっくにずぶ濡れになっている。
それでも、岸先生に、アドバイスをしにきたらしい。

「そうだな、聖。
 岸、言いたいことは言ったからな。
 お前もGKも動いてみせろ」
そう言って、後藤野さんは隣にいた人物と、
手を振りながら歩き出した。

瞬間、岸先生が、きりっと俺のことを見た。

次話へ 前話へ

岸と光は、同じインターナショナルスクールに通っていて、
同じクラスで同じサッカー部でした。
初めからは岸は、ちゃっかり英語教師だったりします‥。


お気に召しましたら一票お願いします。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
銀の翼が恋を知る | TB:× | CM : 0
銀の翼が恋を知る 35HOME銀の翼が恋を知る 37

COMMENT

COMMENT POST

:
:
:
:



 
 管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi