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  [ 雨上がりの最果てで 19 ]
2013-01-08(Tue) 06:20:00
こんこん、とドアがノックされる。
全員が一斉に、ドアを見ると、
青ざめている波多野が入ってきた。

波多野は泣きそうな顔をしていた。
そう言えば、段ボールから守っている時も、
波多野はこんな表情をしていたっけ。
笑っていてほしいと願っているのに、
泣かせてばっかりの俺がイヤになってくる。

「仲村さんの病室はここですか?」
「はい、そうですけど」
「同じバイトの波多野と言います。
 俺が‥俺が‥仲村さんを怪我させちゃって‥」

叱責されると覚悟しているのか、
俺がこうなって悲しいのか、
波多野は、目元を真っ赤にして大粒の涙を零した。
段ボールが崩れてきたのは誰のせいでもないし、
俺がこうなったのは俺のせいだ。
それなのに泣かせてしまって苦しくなった。

兄貴が波多野に近寄り、優しく笑う。
「波多野君の怪我は大丈夫?していないの?」
「はい。さっきまで検査していました。
 仲村さんが、俺のことを段ボールから守ってくれて、
 俺はかすり傷もありません‥すみません‥」

そうか、波多野はあれで怪我しなかったのか。
俺、段ボールからちゃんと守ることができたんだ。
よかった、それだけで救われた気がした。

「そう、それならよかった」
兄貴の言葉に、波多野が驚いて両目を広げた。

「よくなんかありません!」
「いや、よかったんだよ。
 郁央は、君のことを守りたかった。
 守られた君は、かすり傷すら負わなかった。
 郁央は、誰かを守れる男だったんだ」

言われた波多野は言葉を失った。
そして、ぽろぽろと涙を零しながら、
寝ている俺のことを見つめる。

段ボールが崩れてくる前、甘々しい情調ではなく、
むしろ軽く言い争っていた。
だから、波多野にとっては余計に、
どうして守られたのかが判らないのだろう。

「そうだな。郁央にしては役立ったほうかな」
父さんまでもがそんなことを言い、
兄貴と一緒に、くすくすと笑い出した。

ってか、郁央にしては役立ったほうとか、
発言がちょっと失礼じゃないのか。
なんて思いつつ、俺もつられて笑ってしまった。
こんな状況からでも、楽しいことを見つける、
俺達はそういう性格なんだよね。

波多野は、兄貴と父さんの笑顔を見て、
ぐっと唇を噛みながら頭を下げる。
兄貴が笑いながら波多野の肩を、ぽんと叩いた。
「波多野君が泣いていたら郁央も辛いんじゃないかな」

はっと顔を上げてから目を拭うと、
波多野は泣きながら精一杯に笑ってみせた。
波多野のことを笑顔にさせたのが兄貴だったけど、
それでも、俺はすごく嬉しかった。

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