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  [ 雨上がりの最果てで 20 ]
2013-01-09(Wed) 05:45:00
波多野がちょっとだけ笑顔になった。
それだけで、ほっこりと胸が熱くなった。

「これからもお見舞いにきていいですか?」
「もちろんだよ。郁央も、きっと喜ぶと思うよ」
「ありがとうございます」
兄貴は笑顔で、波多野の肩をまた叩いた。
スキンシップに妬いてしまいそうだ。

「郁央は大丈夫だ。天国にいる母親が、
 追い返してくれると私は信じているよ」
「そうだね。母さんが戻りなさいって言うかも」
「だから、波多野君、体をゆっくり休めなさい。
 お見舞いもムリのない程度にね」

父さんと兄貴が笑った。
つられるように、波多野はもっと笑顔になった。
「はい。そうします」

笑顔の溢れる光景に満さんも、嬉しそうに笑っている。
ベッドに寝ている俺も、笑っているように見えた。

ってか、母さんは俺なんかに声かけるかな。
そもそも、俺のことなんか判らない気がするんだ。
母さんが亡くなったのは、俺が11歳の時だ。
11歳と18歳、顔だって変わったし。

「俺のことなんか判らないかもな」
「あら、郁央ったら失礼ね。
 私はちゃんと覚えているわよ」

女の人が、頬を膨らませながら俺の隣にいた。
いた、と言うよりは浮いていた。
見ただけですぐに誰なのかが判ってしまった。
だって、自宅のリビングに飾られた写真と、
全くそのままで同じだったから。

「母さん!」
「郁央、久し振り!」
母さんが嬉しそうに、ぎゅっと俺を抱き締めてきた。
豊満な胸元に、息が吸えないほど顔を埋められる。

あれ、母さんってこんなに胸でかかったのか。
俺が覚えている時の母さんは、とっくに入院していて、
がりがりに顔も体も痩せていたんだけど。

俺は母さんとなら触れ合えるんだな。
ということは、俺はやっぱり死ぬのかな。
いや、それよりも、胸元の破壊力に、
俺はだんだんを青ざめていった。

「苦しい‥母さん‥」
「あらあら、ごめんなさい。
 私ったら嬉しくてつい。郁央、大丈夫?」
「ぷは。うん、大丈夫」

離れた母さんは、今度は俺の両手を握る。
そして、嬉しそうな顔が、泣きそうな顔になり、
ぽろぽろと涙を流し始めた。
「不謹慎と判っているけど郁央に逢うことができて、
 私すごく嬉しいわ」

母さんの温もりに、俺もつい泣きそうだったけど、
それを堪えて笑ってみせた。

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