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  [ 雨上がりの最果てで 21 ]
2013-01-10(Thu) 07:00:00
「ところで、母さんはどうして俺のとこにきたの?」
「自分の息子が、こんな状態になれば心配するわよ。
 だから、カラオケを中断して天国からこっちへきたの」

天国にカラオケなんて設置されているんだ。
それにしても、カラオケが好きだという母さんが、
可愛いと思えてつい笑ってしまった。
好きなことを中断してまで俺のことを心配してくれた。
その気持ちが、俺にはすごく嬉しかった。

「心配させてごめん」
「いいのよ。子供を心配するのが私達の役目だから」

私達、という台詞には、父さんも含まれている。
普通の両親は、そういうものなんだろうな。
親のいない家で、兄貴とずっと2人だけの生活だったから、
ぴんとこない部分もあるけど安心させられた。

「ありがとう。でもさ、俺、
 これからどうすればいいか判らないんだよね。
 あっちに戻れるのか、それとも戻れないのか」
「そのアドバイスをしにきたのよ、私が」
「え?そうなの?」
「導くのが私、そこから先は自分で動きなさい」

俺の手を、母さんが握ってきた。
カラオケしていたと言っていた顔ではなくなり、
マジメな顔になった。
「郁央、愛があれば戻れるわ」

愛があれば戻れる。

愛ってどういう愛なんだろう。

どういう愛なのかを訊ねようとして、
母さんの指が、俺の唇にちょんと軽く当てられる。
俺は、うぐっと声を詰まらせた。

「愛とは何なのか、それをどうすればいいか、
 そこから先は自分で考えるのよ」
母さんのウインクが飛んできた。
可愛らしい仕草に、どきっと胸が鳴った。

戻ったら兄貴も父さんも、波多野もいる。
ヒロさんとカズさんだっている。
でも、戻らなくても母さんがいる。
戻ったらもう母さんには逢えなくなる。
鼻の奥が、つんとしてしまった。

「でも‥母さん‥」
「バカね。私はもう死んでいるのよ。
 母さんのここに光っている輪があるでしょう。
 でも郁央には、まだ頭の上に輪がない。
 まだちゃんとチャンスが残されているんだから、
 悔いのないように動きなさい。いいわね?」

手を握っている細い指が、ふるふると震えている。
俺が何を考えていのかを悟ったのだろう、
母さんもちょっぴり泣きそうになっていた。

子供を心配し、それでも進みなさいと言ってくれる。
これが親なんだと思いながら、静かに頷いた。

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