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  [ 雨上がりの最果てで 25 ]
2013-01-17(Thu) 06:40:00
ベッドで寝ている俺だけが残された、病室。
たまに看護師さんが巡回してきて、
さらさらと記録に何か記入している。
何を書いているのか覗き見ると、
脈拍とは心拍とか、そういうのを書いていた。

今の俺は、どうやら眠くならないらしい。
さて、これからどうしよう。
せっかくだから院内を探検してみようかな。

ノブを掴もうとしたら掴めず、すかっと空ぶった。
これじゃあ外に出られない。
と、俺はここで閃いた。
物に触れないならそれを俺が使えばいい。

ゆっくり前に進むとドアを通り抜けた。
文字通り、体がドアを通ったのだ。
何にも触れない代わりに、こういうことができる。
ナイスな閃きに、ふふんと鼻を鳴らした。

さっきまでは浮いていたけど、
歩きたいと思えば歩けるらしい。
きょろきょろと辺りを見ながら、
俺はゆっくりと廊下を歩いていった。

廊下は、ダウンライトのみついている。
もう夜9時だし、とっくに消灯時間なのだろう。

ナースステーションには、看護師さんが数名いた。
ファッション雑誌やお菓子があるデスクで、
喋りながら記録を書いている。
看護師さんって現場にいるだけじゃなくて、
こんなに何かを書いたりするのか。

「今日、院長室にあの患者さんきたって」
「いつもの定期検診でしょ?火傷、酷かったって噂だし」
「後藤野選手と、仲良くまた一緒だってさ」
「ウソ!きたんだ!私サイン欲しかった」
「もらえる訳ないじゃん。フォーミュラニッポンの、
 イケメンドライバーなんだよ?」
「でもさ、あの人は院長の孫みたいだし、
 またくると思うからチャンス狙ってみようかな」
「脳外科の婦長は、サイン貰ったって喜んでたって」
「職権乱用じゃん!それってずるい!」
ここで、なぜか全員が爆笑をした。

こんな会話中なのに、それでも手は動いている。
タフって言うかすごいって言うか。

後藤野選手は、フォーミュラニッポンのドライバーだ。
俺はもちろんそんな有名人に逢ったことはないけど、
兄貴は満さんと旅行に行き、ちょっとしたきっかけで、
逢ったことがあると話してくれた。
ちなみに、俺はヒロさんの影響でカーレースが好きになり、
後藤野選手のファンだったりする。

あっちから俺の姿は見えないのに、
なぜかカウンターに隠れるようにして進んだ。
泥棒みたいな気分だけど、スリルがあって楽しかった。

廊下を歩いて階段を下りて、出入口に到着した。
ここから出たいって訳じゃないけど、
どこまで行けるのかを試してみたくて、
ガラスの自動ドアに近寄っていく。

すると、柔らかい壁みたいなものを感じて、
ここから先へは行けなかった。
通り抜けることができないってことは俺の体は、
病院からはきっと出られない仕組みなんだろう。
ほっとしたような、がっかりしたような、
何とも複雑な思いだった。

もしも、ここから出られたら、
波多野のところに行こうと思っていた。
行ったとしても何もできないけど傍にいたかった。
でも、これでよかったのかもしれない。

俺はまたしばらく病院内を歩くことにした。

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