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  [ 雨上がりの最果てで 28 ]
2013-01-23(Wed) 04:55:00
波多野は1時間、ずっと病室にいた。
俺を見たり、外を見たり、
ゲーム機を取り出して、レベルを1つ上げたり、
脈拍を測っている機械を見たりしていた。

やることやって、やることがなくなったのか、
ベッドに寝ている俺を、辛そうな目をしながら見て、
病室からゆっくりと退出していった。
そりゃあ、あっちの俺はただ寝ているだけだし、
やることやったら退屈になるってもんだ。

波多野のことを見送ろうと、
ふわふわと浮いたまま後をついていく。
すると、兄貴と遭遇した。
珍しく満さんの姿がなくて、兄貴1人だ。

「こんにちは、波多野君」
「どうも‥こんにちは‥」
「郁央の様子、見にきてくれたの?」
「はい」
「ありがとう。あいつも喜んでるよ」
「いえ‥きっと喜ばないと思います‥」

波多野は、悲しそうに言った。
兄貴はそんな波多野に、にこりと笑った。

「あはは、そんなことないって。
 ベッドにいる郁央に意識はないけど、
 喜んでいるに決まってるよ」
「そうでしょうか‥」
「もちろん。それにね、俺ちょっと思うんだけど、
 あいつがこんな感じになってて、
 ここら辺で話を聞いてるかもよ?」

あいつがこんな感じになってて、というところで、
兄貴は両手を、ぶらぶらと垂れ下げてみせた。
幽霊になって浮遊している、ということらしい。

さすが兄貴、俺のこと何でも判っている。
俺のこと見えていないのに見られていると思って、
どきっとしてしまった。

「まさかそんな‥」
「そう思っていたほうが楽しいじゃない?
 郁央は、辛いことだって楽しくしちゃうんだ。
 そういうところに、俺はたくさん救われてきた。
 大丈夫。あいつは今の状況を楽しんでいるよ」

波多野の肩を兄貴が叩く。
触れ合えるのっていいなと思い羨ましくなった。

「そう‥ですね‥」
「そうだよ。俺達にできるのはあいつが目覚めて、
 いつも通りに接することだけ。
 だから、いつものモチベーションでいないとね」
「はい。ありがとうございます」
「波多野君は、これからバイト?」
「はい。バイト先からは休むように言われましたけど、
 家にいてもやることなしバイト楽しいので」
「そうなんだ。いってらっしゃい」
「いってきます」
波多野は笑顔で挨拶し、去って行った。

後姿を見送り、兄貴が静かに病室へ入る。
ベッドに寝ている俺に、兄貴は無言で、
でこぴんをしてきやがった。
それでも、ベッドの俺はぴくりとも動かない。

「こら、郁央、さっさと起きろ。
 波多野君にいつまであんな表情させておくんだ。
 好きな人って、たぶん波多野君なんだろ?」」
苦笑いを見せた兄貴に、こっちも苦笑いした。

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