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  [ 雨上がりの最果てで 31 ]
2013-01-26(Sat) 05:20:00
阿久津は、しばらく俺に話しかけた。
笹崎は阿久津の真横で、時折ふっと微笑みながら、
俺のことを気にかけている。

今度は、阿久津は父さんに話しかけた。
美術部での俺のことを阿久津から聞いて、
父さんは楽しそうに笑っていた。

俺の学校生活の話を、父さんは兄貴と俺からしか、
聞いたことがないと思う。
だからこそ、そういう情報は新鮮だったろう。

先輩ってだけで幽霊部員も同然だったけど、
先生に言われれば出展の絵はやったし、
たまに顔を出せば、それなりにアドバイスをした。
部員の中で阿久津は特に、俺のことを慕っていた。
そのせいか、俺のことをとても褒めてくれて、
聞いているこっちが照れてしまった。

それが一段落して、今度は父さんが阿久津に話をした。
俺が、どうしてこんな怪我をしたのかという経緯や、
現在の容態、いつかは起きるがいつになるか判らないこと。
阿久津と笹崎は、しんみりと耳を傾けていた。

それでも、阿久津はいつものように微笑んでいた。
笹崎は真剣に、父さんの話を聞いている。
アンバランスなのに、いいコンビに見えてしまった。

「すぐに起きますよ、仲村さんなら」
「‥俺もそう思います」
「そうだね。ありがとう」

父さんは俯いて、軽めに目頭を押さえた。
どうやら、根拠のない発言だったけど、
父さんにはそれが嬉しかったらしい。
そして、引っ込んでいた涙が出てきたのだろう。

阿久津は留年前と留年後で、かなり変わった。
留年前は、ぎすぎすしていて、いつも尖っていた。
笑ったところなんか見たこともなかったし、
アドバイスしたら睨まれたこともあった気がする。

留年後は、尖ったところが丸くなったように、
性格のほとんどが柔らかく変化した。
誰にでも優しくなり、いつだって笑うようになり、
困っている人がいれば助けるようになった。
美術部の顧問も俺自身も、間近でそれを実感した。

留学してたくさんのことを経験したんだろうけど、
もしかしたら笹崎の影響なのかもしれない。
2人の距離感で、ふとそんなことを考えてしまった。

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