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  [ 雨上がりの最果てで 33 ]
2013-01-30(Wed) 05:35:00
病室からバイト仲間がいなくなり、
父さんがイスに座ってぐったりした。
どうやら、かなり疲れたらしい。

「さて。またくるからな、郁央」
俺がちゃんと生きているのを確かめるように、
コートを着た父さんが、ぽんぽんと俺の手に触れてくる。
温もりを感じたのか、少しだけ父さんは笑うと、
ここを静かに去って行った。

仕事は大丈夫か、帰ってちゃんと休んでいるか、
色んなことを聞きたいし喋りたいけど、
今の俺の声は、父さんには届かない。
大きいと思っていた父さんの背が、何だか小さく見えた。

ぽつん、と残された俺は、
昨日のようにあちこちを散策する。
手術の見学や、外来を見学し、
ついでに院長室とやらに突入もしたけど、
そこには誰もいなかった。
俺のことを迎えてくれたのは、
デスクに散乱している資料だけだった。

夜勤の看護師の会話で、後藤野選手、
というキーワードがあった。
フォーミュラニッポンのドライバーのことだろう。
俺、カーレースが大好きなんだよね。
F1もGTも、国外のレースも大好きで録画しているんだ。
好きだって言ったら、波多野も珍しく興味を示したっけ。

兄貴もそのことを承知している。
カーイベントには恥ずかしくて行ったことないけど、
行けるものなら行ってみたいくらいだ。
ネットとか口コミを見てみると、後藤野選手は、
イベントで子供や子連れには、すごく優しいと書いてる。

一昨年から去年前半、走りにムラが出ていたけど、
去年中盤から最終戦では、最高の走りを俺達に見せた。
シーズン途中でスタッフを総入替した、
とニュースで話題になったのが関係しているんだろう。
周囲さえちゃんと安定してくれれば、
後藤野選手は、今年もきっといい成績になる。

もしも、俺がこのまま寝たきりになるなら、
レースの放送を兄貴に録画してほしいな。
って、ネガティブなんだかポジティブなんだか。

ふと、デスクの隅にサインが置かれてあった。
後藤野選手のと、もう1枚ある。
もしかして、メカニックチーフのサインじゃないだろうか。
最終戦の怪我で、一躍有名になった前澤聖のだ。

涎なんか垂れないのに、思わず涎を拭った。
イベント行ったらメカニックチーフのサインも貰えるかな。
今度イベントがあったら絶対、俺は行く。

単独で行くか、波多野も誘うか。

友達、としてなら誘ってもいいかな。

ってネガティブなんだかポジティブなんだか。
勝手に騒いで勝手に疲れて、ぐったりしてしまい、
病室へ戻って休むことにした。

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