BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 青い空を見上げて2nd 21 ]
2010-07-07(Wed) 05:30:44
阿久津城


結局、あれからウツミ達に会うことはなかった。
会わないように観賞もそこそこ早足で歩いていたのに、
ミレトスが休みたいって言うから、あんなことになったんだ。
ミレトスのリクエストで、ゲーセンにきていた。
手始めにキャッチャーでぬいぐるみ2個をゲットする。
ひよこと、ウツミに似ているあの猿のぬいぐるみだ。

そう言えば、ウツミはこの猿のボールペンを持っていた。
あれってまだ非売品のはずなんだけど、どうしたんだろう。

雑誌にこれから発売されるって記事があったから、
それなら、俺がウツミにプレゼントしようと思っていたのに。
誰だか知らないけど、ウツミに余計なことしやがって。

まさか、アメリカ先行発売とかで、クレウスからもらった、
とかじゃないだろうな。

って、俺、こんなにネガティブだったっけ。

「ジョー、これ欲しいヨ」
猿のぬいぐるみを奪おうとするミレトスを、ひらりとかわして、
ひよこのぬいぐるみを投げつけてやった。
毛の色、毛の長さ、どれをとってもミレトスにそっくりだろ。

「これはだめ。こっちならいいけどな」
ちなみに猿のは、ウツミへのおみやげだ。

ぬいぐるみを入れるビニール袋をもらいに、
カウンターに向かっていると、ぐいっと腕を引っ張られた。
ミレトスが、パンチングマシンに目を輝かせている。
「ね、ね、これやりたいネ」

やれやれ、と俺は金を入れた。
ボクサーの格好を真似するミレトスは、
軽くステップを踏んでタイミングを計りながら、
マシン中央にある、赤いミットを殴った。

ぽふっと間の抜けた音がした。
力を込めすぎたのか肩が入ってないし、拳の位置も悪い。

『まだまだだね』
と、書かれたところでメモリランプが止まって、
あははと俺はミレトスに笑ってやった。

ミレトスはといえば、殴った左手を痛めたのか、
ぶるぶる震えながら屈んでいる。

「ミレトス、これもう1プレイあるってさ」
「ジョー‥やってヨ‥」
半べそかいたような声だった。
男のくせに殴ったくらいで情けない。

「いいか、こうやるんだ。よく見てろ」
赤いミットを見つめた。

ウツミとクレウスは、あれからどうしただろう。
クレウスにシャツを掴まれたウツミは嬉しそうだった。
だから、ミレトスの肩に俺は手を置いてやった。

あっちがしたからこっちも、じゃないけど、
ガキみたいに繰り返してばかりで、うんざりだった。
いい加減もう、こんなの終わりにしたい。
このぬいぐるみで、ウツミに機嫌直してほしい。

半身で構えて重心を落とす。
力を抜き、拳や肩よりも腰を入れて、まっすぐ腕を飛ばすと、
ずばんっとミットから鋭い音がする。

『キミがナンバーワン』
と、書かれたところでメモリランプが止まった。
どうやら、マシン最高記録らしい。

「ジョー、すごいヨ!」
ミレトスが、いきなり抱きついてきた。

「離れろ、ミレトス」
言ったけど離れないミレトスを引きずって、
誰も使っていないプリクラに身を隠す。
すると、ミレトスは頬を掴んで唇を寄せてきた。

「やめろって!」
ミレトスの顎を押しのけて腕を突っぱねる。

すると、ぷーっと頬を膨らましながら、
「どうしてヨ?アリゾナにいた時はいつもしてたヨ?」
と、ミレトスは、不満そうな表情をした。

あの頃は、誰とだってじゃれ合えていた。
むしろ、孤独がイヤで常に誰かと一緒にいた。
キスになんか特別な意味はなかった。

セックスこそなかったけど男同士でディープキスもした。
クレウスやミレトスとも、あの頃の俺はした。
それなりに気持ちよかったしスキンシップの一種でもあった。

でも、今は。

ウツミにしかしたくないし、ウツミにしかされたくない。

それは、ウツミが俺にとって、トクベツだからだ。

「もうあの時とは違うんだ」
「違くないヨ。ジョーはジョーのまま、オレの好きな、
 あのジョーのままだヨ」
ミレトスは俺の腕に絡み付いてきて、にこりと笑った。

でも、俺はミレトスの魂胆を知っている。

「知らないとでも思ってんのか。ミレトス、お前は‥」
「ジョー、次はあれで遊ぼうヨ!」
言葉の途中で、ミレトスは、
レーシングゲームへ俺を引っ張っていった。

ミレトスは少し怒っていた。
何があったのか聞いたとしても俺がしてやれることは、
たぶん、ほとんどない。
だったら、憂さ晴らしに付き合うくらい、朝飯前だ。

そう思うと、ウツミとクレウスの展開も仕方がないんだと、
だんだん割り切れてくる。

腕時計は、8時40分。

あとでウツミに電話しようかな、
と思いながら笑ったところで、
レーシングゲームのシグナルがグリーンになった。

次話へ 前話へ
BL小説青い空を見上げて2nd | TB:× | CM:× |

copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi