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  [ 雨上がりの最果てで 44 ]
2013-02-12(Tue) 05:15:00
「もしかして、郁央?」
「本当に仲村さん?」
「前澤さんではなく郁央君ですか?」

兄貴、波多野、満さんという順で、
怖いものに触れるように聞いてきた。
3人もそうだけど周囲にいるみんなも、
驚いているような喜んでいるような、
何とも言えない顔をしている。

そっと手の平を見つめた。
あちこちに見たこともない痕がついている。
怪我のような火傷のような傷痕だ。

こんなの俺は知らない。

ということは、これは俺の体じゃない。

鏡とかないから判らないけど。

たぶん、俺、前澤チーフに憑依している。

だって最終レースで前澤チーフが火傷したの、
テレビで見て俺は知ってるもん。
想像するにきっとこんな傷痕なのだろう。

喜んでいるような怖がっているような、
複雑な表情で、みんなを見回した。
「うん、俺。郁央だよ」

やっぱり今は俺の体じゃない。
低い声色も、高い目線も、何もかもが違う。
すごい、こんなこと本当にあるんだ。
びっくりを通り越して、この奇跡に感動した。

「おい、聖!お前マジで聖じゃないのか!」
後藤野選手が、ぎょっとしている。

チームメイトだもん、そりゃそうだよ。
隣にいた人が、いきなり違う人になったら、
そりゃあぎょっともするさ。

「すみませんけど前澤チーフではありません。
 ちょっと体を借りています」
そう思った俺は、ぺこりと頭を下げた。

すると、隣にいる後藤野選手は固まった。
驚きすぎて動けないらしい。
申し訳ないと俺は思いつつ、俺自身も、
このイレギュラーな事態にどうしたらいいか困惑いた。

「本当に郁央?」
「そうだよ、兄貴」
笑って答えると、兄貴がいつもの笑顔になる。
驚きながらも俺だってことを、
兄貴はちゃんと理解してくれたらしい。

みんなはまだ信じられないような顔をしていた。
こんなこと、すぐに信じられる訳がない。
それでも俺は精一杯に声をかけた。
信じられる信じられないは別として、
俺がここにいるということを伝えるために。

「ヒロさん、カズさん、俺のこと判るかな。
 阿久津に笹崎、びっくりさせてごめん。
 アドバイスありがとうございます、満さん。
 波多野‥ずっと心配かけてごめん‥」
そう言うと、ヒロさんにカズさん、
阿久津に笹崎が、怖がりながらも寄ってくる。

俺を囲みながらみんなが体に触れてくた。
ぺたぺたと頭や腕に触れながらも、
少しずつだけどこの出来事を信じようとしている。
みんなの温かさが嬉しくて泣きそうだった。

すると、満さんが一歩前に出てきた。
「郁央君、時間がないので手早くいきましょう。
 君の意識が戻る方法、判るなら教えて下さい」

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