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  [ 雨上がりの最果てで 47 ]
2013-02-16(Sat) 06:20:00
たった今起こっていた非現実的なことを、
谷村さんにどうやっても説明できるはずもなく、
全員ここから退室させられた。
まあ、当然の結果っちゃ当然の結果だよね。

結局、キスするしないは保留になった。
兄貴と満さんが自宅に戻り、
俺が使っていた愛用品を持ち込んでみよう、
ということで落ち着いたらしい。

谷村さんには退室させられたが、楠家の権限で、
病院に入ってしまおうという結論に至った。
早速、満さんが由夢奈さんにメールを送っている。
コネってすごいけど敵にはしたくない感じだ。

後藤野選手と前澤チーフは自家用車で帰宅し、
他のみんなは電車での帰りとなった。
満さんのいつもの車は、どうやら点検中みたいだ。

みんなで病院を出ようとして波多野が止まった。
「すみません。ちょっと忘れ物しちゃったので、
 みなさんだけで先に行っててもらえますか」

どうやら耳あてを忘れたらしい。
波多野は、耳が弱く、冷たい風に当たると、
すぐに真っ赤になって頭が痛くなる。
静電気が起きるからと帽子は好きじゃないらしく、
耳あてをよく頭にしていた。

「あ、それなら俺も一緒に行ってあげ‥もご‥っ」
「それでは先に行ってますね、波多野君」

兄貴の口を右手で塞ぎ、満さんが笑ってみせる。
阿久津も笹崎も、ヒロさんもカズさんも、
駐車場へむかう後藤野選手と前澤チーフも、
病室へ戻る波多野の姿を、なぜか笑顔で見送った。

波多野は小走りで、俺のいる病室へ戻ってくる。
途中で通るナースステーションは運良く空で、
ほっとした表情で波多野が素通りした。
ベッドの右隣にある丸椅子に、耳あてが乗っている。

あれ、これって、もしかして。

忘れていったんじゃなくて。

置いていったんじゃないのか。

でも、波多野がそんなことをする理由はない。

波多野が耳あてを握りながら、
ベッドに寝ている俺を、じっと見ている。
病室が暗くてどんな表情か見えない。

その影が、ベッドの俺に近づいた。
「あなたは俺のことが嫌いでしょうけど、
 俺はあなたのことが好きなんです」

俺と波多野の影が、静かに重なった。

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