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  [ 雨上がりの最果てで 48 ]
2013-02-17(Sun) 06:20:00
目の前が、暗転する。

よかったわね、という母さんの声が、
どこからか聞こえてきた。
その声に腕を伸ばすと、ぎゅっと手を握られた。
優しい温もりに、手を握り返す。

「お帰りなさい‥仲村さん‥」
「ただいま。波多野、ありがとう」
号泣中の波多野が、首を振る。

ありがとうって、やっと言えた。
ごめんなさいじゃなくてありがとうって、
ずっと言いたいって思っていた。

波多野が俺の手を自分の頬に当て、
泣きながら震えている。
久々の温度と感触に、嬉しくて笑った。

それにしても、俯いているのと暗いのとで、
顔を見たいのに顔が見えない。
空いているほうの手で、波多野の額にでこぴんを打つ。
波多野が衝撃で、眉を歪ませつつ顔を上げた。

「痛いっ」
「あはは、やっと顔が見られた」
「だからって、でこぴんは酷いですよ」
「ごめんごめん」

笑いながら謝った。
そうそう、でこぴんって案外痛いんだよね。
俺もよく兄貴にされて呻いたっけ。

そうしつつ、波多野のことを手招きする。
波多野は、唇を尖らして額を撫でながらも、
ベッドに顔を寄せてくれた。

鋤を狙い、赤くなった額にキスをする。
さっきまで泣いていた瞳が、大きく広がった。
額を両手で覆い、赤面した波多野が、
ぐるぐると目を回している。

「あわわ!何ですか急に!」
「またキスしてほしいんだけどさ、
 言わないと判らない?」
「え?また?どうしてですか?」

俺は波多野の後頭部に触れ、優しく撫でた。
驚いていた波多野が静かになり、赤面のまま硬直する。
こっちの言いたいことが判らないらしい。

諦めようって決めていた。

だけど、好きだって言われたら、話は別だ。

言葉にすればこんな簡単なことなんだ。

「好きだよ、波多野」
「え?え?本当‥ですか‥?」
「本当。ウソなんか言わないよ」
「だって‥嫌われたって思ってて‥」
「ごめんごめん」
「謝り方がすごく軽く聞こえるんですけど」
「ごめんって。ずっと好きだったけど言えなかった。
 だから、嫌われようって思ってた」

ぐす、と波多野が鼻を啜る。
「ずるいですよ‥そんなの自分勝手ですよ‥」

涙を流すところも、鼻を啜るところも、
きらきらと光って見えてしまう。
波多野のことが可愛くて、堪らなく愛しい。
相思相愛なら、絶対にもう手放さない。

またキスをしたくなってしまい、
波多野の頭を撫でながら後頭部を引き寄せる。
唇があと少しで、くっつきそうだった。

瞬間、ドアが開いて、波多野が俺から咄嗟に離れた。

「波多野君、どしゃ降りの雨ですよ」
「満さんがここで傘を借りてくれたから、
 それを使って帰ろうよ」

兄貴と満さんと他4人と、目が合う。
固まってこっちを見ているみんなに、俺は手を上げ、
にこりと笑ってみせた。

「ただいま。みんな、ありがとう」

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