BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 君とは幸せになれない 4 ]
2013-03-26(Tue) 06:20:00
男子トイレには個室が2つあった。
鍵なんかしている暇はなかったらしく、
藤ヶ谷君は、ドアを開けたままで吐いている。
背中が、あまりにも苦しそうに見えて、
苦しさが癒えるように静かに擦ってあげた。

「藤ヶ谷君、大丈夫?」
後から声をかけると、真っ青な顔が、
ゆっくりと振り向いて僕を見る。
幽霊にでもなったかのような表情だった。

「大丈夫‥です‥」
「家まで送ろうか?ここから近いのかい?」
「いえ‥遠いので気にしないで下さい‥」
「気にしないで下さいと言われても」
「吐きまくれば帰れますから‥」
そう言うと、トイレにまた吐いてしまった。

気にするなと言うが、そういう訳にもいかず、
しばらく傍で背中を擦ってあげる。
若い頃に、僕にもこういうことがあったなと思い、
声には出さずに静かに笑った。

やがて、藤ヶ谷君が、ぴくりと止まった。
どうやら全て吐き尽くしたらしく、
トイレに乗っかったまま眠ったらしい。
吐いた後、こんな場所で、こんな格好で、
寝てしまうなんて思いもしなかった。

そのまま放っておく訳にもいかず、
ペーパーで顔やら服やら拭いていると、
心配した仲村君が、いいタイミングでやってきた。

「大津さん、藤ヶ谷は?」
「飲んで吐いて倒れて、そのまま眠ってしまったよ」
「え?これからどうしますか?」
「僕の家、近いからタクシーで運ばせてもらうよ。
 悪いんだけど楠さんに、このこと報告してくれるかい?
 それと、僕のバッグを持ってきてくれないかな」
「あ、はい。すぐに戻ります」
「悪いね。頼んだよ」

仲村君は、急いで行って急いで戻ってきた。
「はい、バッグです。楠さんがタクシーを頼んでます。
 大勢でトイレにきても仕方ないからって、
 ここにこないけど気をつけて帰るようにと言ってました」

藤ヶ谷君を、よっこらしょっとおんぶする。
脱力しきっている人間をおんぶするのは一苦労だ。

「そうかい。ありがとう」
仲村君に微笑み、僕は店を出た。

タクシーが店前で待機していた。
スーパーバイザーの配慮にはいつも感心させられる。
感心しつつドライバーに手伝ってもらいながら、
藤ヶ谷君の体をどうにか後部座席に乗せた。

隣に僕が座って行き先を告げると、タクシーは出発した。

次話へ 前話へ

お気に召しましたら一票お願いします。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
君とは幸せになれない | TB:× | CM : 0
君とは幸せになれない 3HOME君とは幸せになれない 5

COMMENT

COMMENT POST

:
:
:
:



 
 管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi