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  [ 君とは幸せになれない 57 ]
2013-07-30(Tue) 06:40:00
この日の仕事も無事に終わる。

はずだった。

仕事終わり間際、とある女性客がきた。
どこかで見たことがある気がしたが、
客の顔をどうにも思い出すことはできず、
気のせいだと思っていた。

この客のレジを打てば、今日の仕事は終了だ。
伝票を持ってきた女性を前に、レジを打っていると、
聞いたことのある声で、静かに声をかけられた。

「公ちゃん?」

ふと顔を上げる。

どこかで見たことがある気がした。
それは、気のせいなんかでは全くなかった。
僕をそう呼んだのは、後にも先にも、
たった1人だけだった。

ざわ、と体の毛穴が開く。

「八重‥さん‥」
「嬉しいわ。私のこと覚えていたのね」

真っ赤な唇が、嬉しそうに綻んだ。
真逆に、僕の顔はきっと引き攣っている。
恐怖と憎悪で、かちかちに固まった。

息をすることも苦しい。
自然に、息が荒くなって肩で息をする。
それほどまでに、八重さんの存在は、
僕にとって恐ろしかった。

あくまでも、僕にとってはという話である。
八重さんには気品があり、可憐な風貌だ。
可憐な女性がオルテンシアの店長と会話している、
と周りからはそう見えていることだろう。
そう、僕達の関係は、どこの誰も知らないのだから。

「公ちゃん、仕事が終わるまで待ってるから、
 ちょっと時間もらえない?」
「あの‥それは‥えと‥」

八重さんの脅威に、イエスもノーも言えなかった。

そして、勝手にイエスだと勘違いされた。

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