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  [ 君とは幸せになれない 64 ]
2013-08-28(Wed) 06:00:00
楠さんは多くを語らず、静かに帰った。
それは、楠さんの優しさだと判っていた。

心も体も、少しだけ元気になれた気がする。

確実にそう思えたのは翌日だ。

食べたいという気持ちは沸いてこないが、
イヤなことを考えても吐かなくなった。

カーテンから差し込んでくる陽の光に、
時計を見上げると正午が表示されていた。
オルテンシアを休むようになって、
ようやく時間を意識できた。

これまでは、吐いてばかりで体がぐったりし、
時間の感覚が全くなかったし感じられなかった。
人体の回復力は、素晴らしいと痛感する。

その日の夜になり、水だけは飲めた。
楠さんが持ってきてくれた、ゼリーを手にしてみる。
食べたいとは思わないが、食べなければと思ったのだ。
そんなタイミングで、インターフォンが鳴った。

いい予感は皆無だった。
まさにその通りでインターフォンのカメラを覗くと、
そこには彼の姿があったのだ。
彼はまだ真実を知らぬのか、いつもと同じだった。

どういう顔で逢えばいいのか。

逢ってどういう話をすればいいのか。

僕にはそれが判らず、
インターフォンを出ることができなかった。

このまま出ないで寝たふりをしよう。
リビングで息を潜めていると、ドアノブが回された。
家の中へ、彼がムリにでも入ろうとしたのだろう。
残念ながら楠さんを見送って、ドアのロックをしたから、
彼はここへと入ってこられない。

がちゃがちゃ、と回されていたドアノブが静かになる。
さっさと諦めてさっさと帰ればいい。
ぼんやりそう思っていると、こんな声が聞こえた。

「公明!いるのは判ってるから!
 逢いたくないのも判ってるけど話があるんだ!」

それは、近所にさえも響くほどの大声。
彼のものとは思えない声だった。

オルテンシアで、僕のことを聞いたはずだ。
だが、彼はきっとインフルエンザだと信じていない。
むしろ、僕がどうして休んでいるのか知っている、
そんな気がした。

「出てくれないならガラス割らせてもらう!
 あと1分待つから!頼むからここ開けてほしい!」

彼の目は、インターフォン越しでもマジだった。
彼だったら本当にガラスを割ってでも、ここへ入るだろう。

僕は立ち、よろよろと廊下を歩いて玄関へ向かった。

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