2013-09-17(Tue) 05:35:00
「判ってるよ。俺もそうだから。
母さんのこと許せないって思ってるよね。 ごめんね、公明」 「謝られても過去は変わらない!」 「謝るついでにお礼も言わせてもらう。 ありがとう、公明」
抱き締めてくれている彼の手の、力が増す。
僕は、どうしてお礼を言われたのだろう。 全くもって判らないし判りたくなかったが、 答えはすぐに聞けることになった。 「公明がいたから、俺はここにいる。 公明がいなかったら、俺はここにいなかった。 だから、ありがとう」 笑顔と言葉で、ぶわっと涙が溢れてきた。 そして、僕は、情けないほど泣いた。 僕はきっと泣きたかった。 泣けなくて怒っていた。 怒ったらますます収まらなくなってしまった。 彼が、泣くためのきっかけを与えてくれた。 ずっと、僕が悪いのだと心で考えていた。 けれども、それぞれの色んな思いがあって、 こういうことになってしまったのだ。 だから、僕も、彼も、誰もきっと悪くない。 泣いたからって解決する訳じゃあない。 しかし、泣くことによって気持ちが軽くなっていく。 周りの誰もを、許せるように思えてくる。 「ありがとう、公明」 ぽつり、と囁くような声。 それは間違いなく、泣いている声だった。 話があるから帰らない、と言った彼。 きっと、ありがとうと言いたかったのだろう。 あの時のあの声には、とても強い決意が込められていた。 ようやく、どんな気持ちで、 彼がここへきたか判ったような気がした。 次話へ 前話へ お気に召しましたら一票お願いします。 |