2017-03-15(Wed) 10:00:15
「何でだよ!」
ぐしゃ、と光さんの手によって、 何の罪もないコーヒーの缶が潰れた。 会議が終了し、みんな解散した。 昇格に喜ぶ三木谷に、瀧と佐原も祝い、 3人でご飯を食べに行った。 俺も誘われたが行く気になれなかった。 光さんが、チームの振り分けにイライラしている。 恋人をこの状態で、置いて行けない。 取り敢えず落ち着こうと、 2人だけで本社の休憩所にきた。 俺は紅茶、光さんはコーヒーを買い、 ちびちびと飲んだ後である。 光さんは潰した缶を、ゴミ箱に投げ捨てた。 「ああ、くそ。マジで何でだよ」 怒っている顔で、どかっと俺の隣に座る光さん。 顔も耳も、ずっと真っ赤なままだ。 去年、タッグを組んで勝つことができた。 タッグを組むまでは、俺達はすごく不仲だった。 それでも、たくさんの壁を乗り越えて、 チームとして起動するようになり、 光さんと俺は、恋人という関係にもなった。 その俺と光さんが、チームを離された。 怒る気持ちは判る。 でも、監督とオーナーの指示だ。 何をどう言っても、覆すことは難しい。 「おい、聖。お前はどうして怒らないんだよ」 「怒ってますよ。でも怒ったって変わりません」 「変わらなければ怒らないのかよ」 「そのエネルギーを他に向けたいだけです」 ちっ、と光さんの舌打ちが聞こえた。 返されたことに正しいと思ったみたいだ。 光さんも判っている。 監督の指示も、自分の感情も、 レースに勝つ為には割り切らないといけない、 ということを。 ただ、頭ではちゃんと判っていても、 なかなかそうできないだけだ。 俺は、周りに人がいないかを見てから、 光さんの手にそっと触れる。 すると、光さんが手をぎゅっと握ってきた。 その手を強く握り返した。 「チームは違いますが同じチームESです。 俺はいつでも傍にいますよ」 「そんなこと判ってるっつーの」 仕方なさそうな笑顔で、光さんが言った。 次話へ 前話へ お気に召しましたら一票お願いします。 |