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  [ 決めたゴールを走れ 50 ]
2012-04-09(Mon) 06:00:00
トランスポーターにあるトイレで、
ばったりと光さんに会った。
俺はさっきまでピット内にいて、
光さんはここで監督と話をしていた。
「お疲れ、聖」
「お疲れ様です。
 ブレーキの最終調整をしますので1時間後、
 タイムアタックお願いできますか?」
「ああ、了解」

光さんがにやにやしながら答えた。
失礼だけどその笑顔が、怪しく見える。
構えながら光さんを見ていると、ふっと笑われた。

「何だよ?」
「こっちの台詞ですよ。
 俺をにやにやしながら見てどうしたんですか?」
「聖がチーフらしくなったなって思ってた」
「そうですか?」
「ここにきたばかりの頃は頼りなさそうだったぞ。
 でかいから余計にのほほんとしてる印象だったしな。
 でも、今はいい顔つきしてる」

彼氏を褒めるような恋人の顔だった。
でかいって台詞は余計だけど、
こんなことを言われて嬉しくないはずがない。
照れたのを隠そうと思ったけど、きっとばれている。
顔がこんなに赤くなっては隠しようがない。

「照れてんのか聖?」
「ええ、まあ」
「あはは。でかいけど可愛いとこあるじゃん」
「でかいは余計ですから」

光さんが背伸びをして迫ったきた。
傷をぺろりと舐めてくる。
まるで、そうすることが当たり前のように。
その唇が動いて、唇にそっと重なった。

「ん‥っ」
重なった熱に、思わず呻く。

瞬間、トイレのドアが、がちゃりと開いた。

びっくりして、光さんから離れる。

「チーフ、後藤野さん、お疲れ様です」
ふらふらの瀧がトイレに入ってきた。

徹夜が続いているから限界が近いんだろう。
目の下の隈が、それを物語っている。
瀧は小用を足し、手と顔を洗い、
再びふらふらしながらトイレを後にした。

「危なかったな」
光さんの声に、俺は我に返る。

俺はここで何をしていた。

いつかこういうとこを見つかるかもしれない。
常にそういう思いはあった。
だけど、光さんが大丈夫だって言うから、
根拠はないのに信頼してしまっていた。

そのせいで、危うくキスを見られそうになった。

恋人でもあるまいし内緒でキスするなんて、
バカバカしいにもほどがある。
明後日はもう予選なんだ。
浮ついていたら勝てるレースにも勝てないんだ。

俺は拳を握り、光さんに言った。
「もうやめましょう、こんなこと。
 恋人じゃないんだし意味ないでしょう」

光さんにこうして意見をするのは初めてかもしれない。
怖かったけど言うなら今しかなかった。
怒りでまたヘルメット投げつけられるかもな、
なんて思っていると、光さんは笑った。
「そうだな、そろそろやめるか」

笑ったまま出ようとする光さん。
ここから顔や目元が見えない。
光さんがわざと見せないようにしている。

消えそうな背中に声をかけた。
「ブレーキテストやりますからね」
「ああ、さっき聞いた」

そして、光さんはそのまま消えてしまった。

文字通り、サーキットからいなくなったのだ。

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