2017-07-28(Fri) 09:34:28
「ふざけんな!」
そう叫んだのは光さんだ。 右手に、ワインの瓶を持っており、 叫ぶ前に飲み、叫んでからも飲む。 飲まなきゃやってられないといった感じだ。 ちなみに、光さんの足元にはワインの瓶が、 空になって3本ほど置かれている。 これだけ飲んでもほとんど酔っていないのだ。 恐ろしい人だ。 ここはホテルのデラックスルーム。 ミーティングがあるのは知っていたから、 光さんが予約を取っていた。 ワインも料理もルームサービスにし、 ホテルマンにここまで運んでもらったのだ。 「まあまあ、そんなに怒らないで下さいよ。 αチームとβチームで分かれても、 同じESチームには変わりないんですから」 「バカ!その話はもう終わっただろ!」 光さんに指を刺された。 向けられた指は、とても真っ直ぐ伸びており、 それはまるで銃口のようだった。 俺は少しだけ身を引いてしまった。 「おい、聖。お前はマジで鈍いな。 チームが分かれたのは、しょうがないだろ。 実力、経験、実績、人員のそれらを分析したら、 ああいうチームに分かれるのも判るんだ。 イライラしているのはそこじゃない」 「あ、そうなんですか?」 「βチームの新ドライバーといい、 メカニックの後輩といい、 お前を狙っている奴が多いってことだ」 一気に言った光さんは、はあはあと息切れをした。 息を整えることなくワインを飲み干す。 俺は、ぽかんと口を開いた。 「狙われているんですか?俺がですか?」 「だからそう言ってるだろうが!」 ロイには腰を触られたし、牧田とは仲良しだが、 いくらなんでも安直すぎないだろうか。 そう思うも、今それを言ったら、 鈍い俺でも火に油なのは、さすがに理解している。 ここは、さらっと流しておこう。 「牧田は先輩と別れたって言ってましたけど、 だからって俺に迫ったりしませんよ。 別れた先輩と俺とでは、タイプが違いますから」 「はあ?どういうことだ?」 「あ、ほら、光さんにも言ったじゃないですか。 水泳部で同性の先輩と後輩が付き合ってたって。 その後輩があの牧田ですよ」 「‥何‥だと」 光さんの顔が、みるみる赤くなった。 酔ってきて顔色が変わった、 という感じではなく怒っているようだった。 どうやら俺は流したのではなく、 かなりの量の油を注いだみたいだ。 やっぱり俺はマジで鈍いらしい。 後悔とは、後に悔やむものだと思い知った。 次話へ 前話へ 水泳部の件は決めたゴールを走れ54話参照(笑) お気に召しましたら一票お願いします。 |