BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 星が刻んだ未来さえ2nd 5 ]
2014-10-06(Mon) 16:40:27
3連休の初日早朝、満さんから電話が入った。

「すみません、舞斗君」
開口一番、謝罪の言葉。

ベッドを見ると、帰ってきた形跡が見られない。
どうやら出先からの電話みたいだ。

「どうかしたんですか?」
「昨夜、地方のSVが入院してしまい、
 私がそちらへ行くことになったんです」

地方で、支店がオープン準備をしていた。
そのことは満さんから聞いていたし、
オルテンシア内でもバイトのみんなで話していた。

でも。

だからって。

「だからって、満さんが行かなくても…」
「こういう緊急時というのは、
 独身者に回ってくると相場が決まっているんですよ」
苦笑いしているような口調だった。
困った顔をしているのが頭に浮かぶ。

こういう役回りはいつも独身者だ。
既婚者はそれなりに優遇される。
家族も大事だろうけど仕事は平等にすべきだ。

連休、俺はとても楽しみだった、
だけど、これが社会人なんだ。
あんまり言って満さんを困らせたくないし、
うるさい奴だって思われたくない。

「判りました。気をつけて行ってきて下さい」
震える声で、そう言った。

「ありがとうございます。
 明日の夜までには帰れると思いますから」
それだけ言い電話が切れた。

明日の夜までに帰るって言ったけど、
2日間、何もすることないし困っちゃうよ。
満さんと過ごせると思って、
レストランとかショップとか、たくさん調べちゃったよ。
大学の休みも店舗を調べたのも、全部が無駄だ。

どうせ、明日の夜までに帰っても、明後日は朝から出るのだろう。
またきっと仕事になって、会うのがキャンセルされるに決まってる。

俺は携帯を畳み、それをベッドに投げつけてやった。
ついでに、ぐりぐりと枕を押し付けてやる。

「バカ、そんなの引き受けんなよ。満なんて嫌いだ!」

本人に直接、こんなことを言っていたら満さんはどうしただろう。
困らせたくないのに寂しさから困らせてしまうんだ。

最近、独り言の時は、満さんのことをさん付けしていない。
それなりに年齢差はあるけど、恋人なんだから名前でもいいかな、
なんて思うからだった。

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星が刻んだ未来さえ2nd | TB:× | CM : 1
  [ 星が刻んだ未来さえ2nd 6 ]
2014-10-27(Mon) 14:04:04
少しは気が晴れて、携帯を取って充電器に置いた。

今日、これからどうしようかな。

郁央と彰彦はバイトだし。
晋平は彼女とデートだし。
高校の時の友達は、あんまり連絡してないし。
何しようかな俺。

この際だし趣味でも作ろうか。
いや、そんな気分にもなれない。

そうだ、凛さんのお店にでも遊びに行ってみよう。
最近、バイト忙しくて逢ってなかったと思い、
ゆっくり出発の用意をして、凛さんのお店へと向かった。

以前、バイトですごく世話になった長瀬凛。
年齢は25歳の、俺にとっていいお兄さんだ。
18歳になってすぐにバイトを開始したみたいだけど、
そのバイトを辞め店を持ったのだ。

凛さんの店には、自分でデザインした洋服がある。
虹という漢字でコウと呼ぶ、そういう名前で活動している。
だから、服やグッズのモチーフも虹ばかり。

ちなみに、以前にやっていたバイトの内容は、
同性向け風俗だ。
凛さんは両親の借金を返すのと、母親の入院費と、
ショップを開きたいという夢があってそこで働いていた。
それぞれ色んなものを抱えながらも、
俺達はこうして出会えたのだ。

あのバイトに後悔はしていない。
だって、このバイトで凛さんや満さんと会えたんだから。

それなのに、さ。

そんなことを考えていたら、店に着いた。
むすっとした顔のままだったから、店に入る前に、
ちょっと顔を引き締めてみる。

ドアの傍に貼られた、モデルのポスターが、
ナイスなインテリアになっていた。
グローバルに人気のあるスーパーモデルの伊吹とスウが、
凛さんのシャツを着ているポスターだ。
しかも、ポスターには直筆サインまであった。
これを目当てに、ここにくる人も多いとか。

伊吹のことは数日前に目撃している。
なんて言うけど、単にマンションの隣が、
偶然にも伊吹の部屋ってだけ。

「いらっしゃい、舞斗君」
レジカウンターで、凛さんが笑った。

「こんにちは。ご無沙汰です」
「久し振り。何かいいのがあったら持ってってね」
「ちゃんと買いますよ」

凛さんはいつもそう言う。
面倒見がいいというか兄貴肌というか。
ちなみに、俺はシャツとかを持っていった試しがない。
当たり前だけど、ちゃんと買っている。

それにしても連休初日だというのに、客がそんなに多くない。
今だってお客さんは、女性2人のみだ。
この2人の目当ても、どうやらポスターみたいで、
たくさんの写メを撮っている。

カウンターの傍まで行ってさり気なく訊ねてみると、
あははと凛さんが笑った。
「連休は、ほとんどの人はレジャーに行っちゃうんだよ」

そうだよな、休みなんだからレジャーに行くよな。
蘇ってきた怒りを抑えながらも、なるほどと頷いてみせた。
俺なりに冷静を装いながら。

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星が刻んだ未来さえ2nd | TB:× | CM : 0
  [ 星が刻んだ未来さえ2nd 7 ]
2014-11-06(Thu) 15:14:58
連休は、やっぱりレジャーに行っちゃうよな。

くうう、と唸りながら拳をぎゅっと握った。
それを見て凛さんが、びっくりしている。

「あれ?舞斗君もレジャーの予定とかあったの?
 でもまさか、ドタキャンとかじゃあないよね」
「あはは、まさか」

怪しまれないように笑ってみせた。
笑っているのに頬が、ぴくぴくと引き攣ってしまう。
凛さんは、怪しんでいる目をしていた。

「ねえ、気になることあるんだけど聞いていい?」
「いいですよ」

落ち着こうとしてペットボトルのお茶を飲む。
すると、こんなことを訊ねられた。
「あのバイト辞めたのって何でなの?」

まさかバイトネタとは思わなくて驚いてしまい、
お茶を吹きそうになって口を閉じた。
震える喉で、お茶をどうにかして飲む。
ぷはっと息を吐いて、涙目を凛さんに向けた。

「どうしたんですか、いきなり」
「ばれそうで辞めたのは知ってるけど、
 たぶん、それだけじゃないよね?」

カウンターに頬杖をつきながら微笑んでいる、凛さん。
いや、微笑みなんていう生易しいものではなく、
全てをまるで知っているかのように、にやついていた。

「まあ、それだけなような、それだけじゃないような‥」
「すごくいい顔してんだよね、舞斗君。
 好きな人か、付き合ってる人が今いるでしょ?」

勘が鋭い。

俺は、困ったように笑いながら頷いた。

「まあ、はい」
「やっぱり。あのバイトの客ってことはないっしょ。
 うん、ないない。まさかね?」

やっぱり、勘が鋭い。

イエスとは言えないけど、ノーと言えばウソになる。
というわけで沈黙してしまった。
でも、沈黙するってことは同意しているも同然なんだよな。

すると、くくくっと凛さんが笑った。
そのまさかなんだ、とでも言いたそうな目をしながら。

「正直すぎだよ舞斗君」
「‥すみません」
「よかったじゃない。バイトの時は暗かったから、
 それなりに心配だったんだよ」

凛さんは笑い、俺を励ますように肩を叩いてくれた。
バイトしていた当時は色々あったから、
凛さんから見てもやっぱり暗かったのだろう。

俺に手を差し出し、暗いところから救ってくれたのが、
お客さんだった満さんである。
その満さんは、急務の仕事で、今はここには居ないけどさ。

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星が刻んだ未来さえ2nd | TB:× | CM : 0
  [ 星が刻んだ未来さえ2nd 8 ]
2014-11-28(Fri) 10:49:30
「ああ、でも残念だな。舞斗君、マジでタイプなのに」
「そんなこと言いますけど、凛さんにもいい人いますよね?」

カマかけたつもりだった。
そしたら、それが当たったのか凛さんが、
かあっと真っ赤になった。
「あ、うん、まあ」

にししと照れ笑いをされた。
幸せですって顔をしている。
むむむ、ちょっと悔しい気がした。

「もう付き合ってます?」
「まあね。でも、あっちもこっちも仕事忙しいけどさ」
「仕事が理由で会えない時ありますか?」
「そりゃあもちろん」

笑顔での回答だった。
会えないのにどうしてそんなに笑っていられるんだろう。

「何?舞斗君の恋人、今日も仕事?」
「はい」
「そっか。まあ仕方ないよ」
凛さんに再び、肩をぽんと叩かれた。

「でも、仕事があるから自分があるんだよ。
 恋人がいれば尚更、仕事ってすごく頑張れるんだ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。それに、離れていたってここは繋がってるでしょ?」
凛さんが胸を、とんっと軽く叩いてる。

「自分が相手を恋しい時って、
 相手も自分を恋しいに決まってるよ」

何気ない台詞が、心の中の何かが、ことんと落ちて行った。
同時に、忙しい満さんに対して、バカだなんて思ってたことを、
申し訳なくなってしまい心で謝った。

「それでも、寂しいものは寂しいけどね。
 あ、そうだ、いいものあるよ。ちょっと待ってて」
凛さんがバックヤードに下がり、何かを持ってきた。
青いビニール袋に、2つの何かが入っている。

「これ何ですか?」
「帰ってから開けてみて。きっと暇潰し程度にはなるよ」
「はい。ありがとうございます」
それから、店が終わるまで俺は待ってて、
凛さんとごはんへ行った。

その後、昔のバイト先へと遊びに行った。
凛さんが頼まれていたシャツを作ったのを渡しにいくのを、
暇だから付き合った。

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星が刻んだ未来さえ2nd | TB:× | CM : 0
  [ 星が刻んだ未来さえ2nd 9 ]
2014-12-21(Sun) 11:18:55
昔のバイト先にやってきた。
古びたマンションのドアを軽くノックしたのは、
俺ではなく凛さんだった。
ノック後、中からの返事を待たずに、
開いているのが判っているかのようにドアを開ける。

「鬼塚さん、いる?」
「おお、太郎」
「頼むから忘れてよ、その名前」
靴を脱ぎながら笑う凛さん。

太郎という名前は、ここでの凛さんのニックネームだ。
俺はそのまま名前を使っていたけど、
凛さんは太郎という名だった。

「お邪魔します」
「あ、マイトじゃん。久し振り。元気?」
「はい。元気です。鬼塚さんは?」
「まあまあかな」

吸っていた煙草を灰皿で揉みながら、
椅子に座っている鬼塚さんが笑う。
鬼塚さんは昼間のせいか、ちょっと退屈そうに、
パソコンを見ていたようだ。
このバイトは夜に客が多いもんな。

「何、マイトどうしたの?凛ちゃんが連れてきた?」
「凛ちゃんってのもちょっと厳しい」
「だったらどう呼んだらいい訳?
 マイスイートハニーとでも呼んでやろうか。
 あ、いや、マイスイートダーリンか?」
「もう、凛ちゃんでいいよ凛ちゃんで。
 はいこれ、頼まれてたやつ持ってきたよ」

凛さんが鬼塚さんに紙袋を渡すと、
からかうのが楽しいと言わんばかりの顔が、
ぱあっと明るくなった。
中にはTシャツや帽子が入っている。

「サンキュ。いつも悪いね」
「こちらこそ毎度どうもです」
「で、マイトはどうしてきたの?」
「遊びにきてくれたからついでに連れてきたんだ。
 話聞いてたら今日空いてるみたいだし」
「そうなんです」

バイトにいい思い出はないけれども、
バイトをやっていなかったら、満さんと逢えなかった。
だから、とても大切な場所なんだ。

鬼塚さんとちょっと会話してから、凛さんと俺は、
古びたこのマンションを後にした。
夜風はちょっぴり肌寒く、こういう時は人肌が恋しくなる。
早く帰り、満さんの匂いがするベッドに潜りたかった。

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