BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 決めたゴールを走れ2nd 5 ]
2017-05-19(Fri) 13:32:53
いつもの監督とオーナーのコンビと、
βチームのドライバーが、揃って歩いてきた。
まるで、俺のことを探していたかのように。

「ここにいたか、前澤」
「あ、はい」
「βチームのドライバーを、きちんと紹介したくて、
 お前のことを探していたんだぞ」

監督が、俺と新ドライバーを向き合わせる。
ハーフ顔をしたβチームのドライバーが笑って、
俺に握手を求めた。

「ロバート・ウェイクロス・戸高です。
 父はアメリカ人、母は日本人の、ハーフです。
 名前が長いのでロイと呼んで下さい」
「あ、はい。前澤聖です。よろしくお願いします」

求められた握手に応じると、
ロイは光さん、牧田、それぞれに挨拶と握手をした。
その後、なぜか、俺にくっついて立ってきて、
するっと腰を掴んできた。
ざわりと寒気がして、慌てて離れる。

にこりと笑うロイがいた。

それを見ても笑えずにいた。

隣に、いつの間にか光さんがいる。
するりと俺とロイの間にやってきた。
まるで、ガードしてくれるかのように。
顔はひっそりと怒っていた。

「前澤、お前はチーフ歴がある。
 αチームのチーフをやりながらになるが、
 βチームのチーフを育ててやってくれ」
オーナーと会話していた監督が、
思い出したかのようにこっちを見て言った。

「あ、はい」
「それじゃあ行こうか、ロイ」
「はい、監督」

オーナーと監督について、ロイが歩き出すと、
振り返ってこちらに手を振った。
呆然としすぎて反応できずにいると、
牧田が、小さくこう呟いたのが聞こえてきた。

「これは面白くなりそうだ」

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決めたゴールを走れ2nd | TB:× | CM : 0
  [ 決めたゴールを走れ2nd 6 ]
2017-07-28(Fri) 09:34:28
「ふざけんな!」
そう叫んだのは光さんだ。

右手に、ワインの瓶を持っており、
叫ぶ前に飲み、叫んでからも飲む。
飲まなきゃやってられないといった感じだ。

ちなみに、光さんの足元にはワインの瓶が、
空になって3本ほど置かれている。
これだけ飲んでもほとんど酔っていないのだ。
恐ろしい人だ。

ここはホテルのデラックスルーム。
ミーティングがあるのは知っていたから、
光さんが予約を取っていた。
ワインも料理もルームサービスにし、
ホテルマンにここまで運んでもらったのだ。

「まあまあ、そんなに怒らないで下さいよ。
 αチームとβチームで分かれても、
 同じESチームには変わりないんですから」
「バカ!その話はもう終わっただろ!」

光さんに指を刺された。
向けられた指は、とても真っ直ぐ伸びており、
それはまるで銃口のようだった。
俺は少しだけ身を引いてしまった。

「おい、聖。お前はマジで鈍いな。
 チームが分かれたのは、しょうがないだろ。
 実力、経験、実績、人員のそれらを分析したら、
 ああいうチームに分かれるのも判るんだ。
 イライラしているのはそこじゃない」
「あ、そうなんですか?」
「βチームの新ドライバーといい、
 メカニックの後輩といい、
 お前を狙っている奴が多いってことだ」

一気に言った光さんは、はあはあと息切れをした。
息を整えることなくワインを飲み干す。

俺は、ぽかんと口を開いた。

「狙われているんですか?俺がですか?」
「だからそう言ってるだろうが!」

ロイには腰を触られたし、牧田とは仲良しだが、
いくらなんでも安直すぎないだろうか。
そう思うも、今それを言ったら、
鈍い俺でも火に油なのは、さすがに理解している。

ここは、さらっと流しておこう。

「牧田は先輩と別れたって言ってましたけど、
 だからって俺に迫ったりしませんよ。
 別れた先輩と俺とでは、タイプが違いますから」
「はあ?どういうことだ?」
「あ、ほら、光さんにも言ったじゃないですか。
 水泳部で同性の先輩と後輩が付き合ってたって。
 その後輩があの牧田ですよ」
「‥何‥だと」

光さんの顔が、みるみる赤くなった。
酔ってきて顔色が変わった、
という感じではなく怒っているようだった。
どうやら俺は流したのではなく、
かなりの量の油を注いだみたいだ。

やっぱり俺はマジで鈍いらしい。

後悔とは、後に悔やむものだと思い知った。

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水泳部の件は決めたゴールを走れ54話参照(笑)

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決めたゴールを走れ2nd | TB:× | CM : 0
  [ 決めたゴールを走れ2nd 7 ]
2017-09-26(Tue) 15:47:39
光さんはイライラした分を、
ベッドで解放しなかった。
俺も、きっと光さんも、
デラックスルームの柔らかいベッドで、
たくさん絡むだろうと思っていた。

「怒りに任せて、セックスしたくない。
 どうせならもっと落ち着いてやりたいだろ。
 だから、今日はとことん飲んでやるぞ」
という宣言をされ、光さんは言った通りに、
ワインをとことん飲んだのだった。
俺はそれに頷きながら、ワインに付き合った。

光さんの気持ちは判っている。
セックスとは愛情の確認でもあるのだ。
それを怒りに任せて行ったら、
勢いだけで終わってしまう。
じっくり絡み合いたいのが、俺達の本音。

そして、ようやく本戦にむけて始動する。

まずはβチームのメカニックの、
名前に顔に特徴、得意分野に不得意分野、
メカニックとしての腕前とスピードを調査した。
ほぼ同時に、ロイのテクニックや、
スピードの出し方、ブレーキの踏み方、
ハンドリングの特徴や癖を観察をする。

光さんとは異なるそれらを、
メカニックチームでカバーしていくからだ。
もちろん、カバーにも限界はあるが。

特にロイは大変だろうと思う。
本来は、GTレースのドライバーだった。
レースやサーキットには慣れているとしても、
GTとF3では、マシンが異なる。
これは大きなハンデだと言ってもいい。

そうなると、頼りになるのは慣れたスピードや、
ロイの運動神経だろう。
もちろん、そこら辺を考えられて、
ロイがドライバーに選ばれた訳だけれども。

「大丈夫だよ」
ロイは甘いコーヒーを飲み、笑って答えた。

今はランチの後である。
俺はロイを誘って、コーヒーショップにきた。
ロイは、すらりとした体形からは想像つかないが、
甘いコーヒーが好きらしい。
太らなくて羨ましいと思ってしまう。

「とくかく、やってみるしかないから。
 それにレーサーとして、GTもF3も乗れるなんて、
 こんなに恵まれたことはないよ」
「ポジティブなんですね、ロイさんは」

関心し、頷いてからブラックコーヒーを啜ると、
ロイは人差し指を左右に振った。
ちっちっちっ、と言いたげな口をしながら。

「さん付けも、敬語も、ノーサンキュー。
 僕はそういうの嫌いだから、
 フレンドリーに関わったり喋ったりしようよ」
外国での生活が長いとは聞いている。
こういうジェスチャーは外国では自然なのだろうか。
俺自身、今までに外国へ行ったことがなく、
そういうのが判っていない。

それとは別にして、フレンドリーで接していいのは、
俺にもみんなにもいいかもしれないと思った。
βチームのメカニックのメンバーは、
きっとまだ緊張しているだろうから、
これだけでもリラックスのきっかけになる。

「そうだね、ロイ。これから宜しく」
「こちらこそ宜しくね、セイ」
笑うとロイも笑ってくれた。

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決めたゴールを走れ2nd | TB:× | CM : 0
  [ 決めたゴールを走れ2nd 8 ]
2017-11-10(Fri) 14:02:26
午後は本部で、ミーティングがある。
その前にロイを誘って、ランチを取っていた。
ロイができるハンドルテクニックや、
逆に苦手な技を、ロイから聞く為だった。

実際に得た情報も、もちろん大切だけど、
本人自身がどこが得意でどこが苦手なのか、
どうカバーしているのかを聞かないといけない。
そうしないとこちらで何をフォローすればいいか、
車をどう仕上げていいか判らない。

2人でデザートのケーキまで済ませてから、
本部までゆっくり散歩する。
ロイはやけに俺にくっついて歩く。
これがフレンドリーなのか、単にロイ式なのか。

甘い香水の香りが、俺を鼻を誘う。
このフレグランスはレディースかもしれない。
光さんとはまた違ったいい香りがした。

本部のエレベーターフロアで、
エレベーターを待って立っていると、
いきなり目が痒くなった。
どうやらまつ毛が入ってしまったらしい。

「あ、あたた‥」
「どうしたの、セイ?」
「目が痛い‥まつ毛が入った‥」

目を掻いたら涙が零れた。
侵入してきたものを排除しようと、
どんどん涙が溢れ出てくる。

くいっ、と顎の下から力が加わって、
顔が上を向く。
ロイの手が俺の顎を支えていた。
目がまだ痛いのと、明かりの眩しさもあって、
ぎゅっと俺は目を閉じる。

「セイ、擦ったら痛くなるよ。
 僕がとってあげるから動かないで」
ロイが俺の下瞼を引いて、
ハンカチを当ててきた。
真剣なロイの表情が、よく見える。

「まつ毛あった。あとちょっとで取れるからね」
「ありがとう、ロイ」
「よし、まつ毛が取れた。もう大丈夫だよ」

ロイと一緒に安堵していると、
ぽんっと音がしてエレベーターが開いた。

そこには監督とオーナーがいた。

2人の背後にいた光さんが固まっていた。

そりゃそうだろう。
だって、今の俺は、ロイに顎を上げられて、
泣きながらロイと喜んでいるのだから。
これはまるで、初めてキスされて喜んでいる、
恋人同士のようだった。

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決めたゴールを走れ2nd | TB:× | CM : 0
  [ 決めたゴールを走れ2nd 9 ]
2017-12-15(Fri) 13:07:27
俺は、慌ててロイから離れた。
本当にキスをしていた場面ではないけど、
少なくとも誤解を招いてしまう。

ロイはそれを気にも留めず、
両手を広げながら3人に寄っていった。
「ボス、オーナー、ヒカル、こんにちは」

監督、オーナーとハグを交わしていくロイ。
これがロイ流なのだろう。
それにしても、監督ってボスって呼称なのか。

ラストが光さんという時になって、
光さんは歩き出してしまった。
残念そうな表情で、ロイが頭を掻いた。

一瞬、光さんがこちらを見た。

きりっと目を吊り上げながら。

アクシデントだが光さんを怒らせてしまった。
あとでちゃんと詫びないといけない。
面倒くさい騒動になり、がくりと項垂れた。

午後のミーティングは合同式で、
αチームもβチームも揃っている。
席はチーム分けされており、
光さんと俺は、遠くに離れて座っていた。

メインモニターに年間スケジュールが表示してある。
シーズン中のメインの動きや、
レースやオフについて監督が説明しているが、
どうにも頭に入ってこない。

光さんのことがモニターよりも気になる。
さっきから光さんを見ているけど、
光さんはモニターのスケジュールを眺めており、
全く俺とは目が合わない。
いつもはミーティング中でも少しくらいなら、
俺を気にしてくれて目が合うのに。

ミーティングが終わってから謝ろう。
誤解させるような場面だったこと、
そのせいで怒らせてしまったことを、
ちゃんと謝って判ってもらおう。

はあ、と溜め息が出る。
すると、ロイが俺の肩に腕を回した。

「セイ、具合悪いの?」
「あ、ううん。大丈夫だよ」
「スケジュール管理頼むからね、チーフ」

小さい声のロイに、静かに頷くと、
ここで偶然にも、光さんと目が合った。
光さんの顔が、ぐっと一瞬にして強張る。

そう、俺はロイに肩を組まれて、
ぴったりと密着していたのだ。

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